約 2,287,751 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/464.html
ヤッパッパーヤッパッパーイーシャンテン はしゃぐ恋は池の鯉 ヤッパッパーヤッパッパーイーシャンテン 胸の鯛は抱かれタイ #訳もわからずに ハルヒハルヒで、日が暮れる 君と逢ってから ハルヒハルヒで ナンダカンダと、すったもんだの世紀末 なぜもっと静かに「好きだよ」と言えないの? 張り合うと私も じゃじゃ馬になっちゃう! ベルも鳴らさずに そよ風の様に 胸のワンルーム住みついた君なの 迷惑よ だけど …今夜だけいいわ (明日までいいわ) ヤッパッパーヤッパッパーイーシャンテン 踊る接吻は海の鱚 ヤッパッパーヤッパッパーイーシャンテン 恋の鰺は隠し味 見つめられる度 ハルヒハルヒで、目が回る 恋になりそうで ハルヒハルヒで タンマタンマで そんなもんねとお友達 迫力で口説かれ 星の街逃げ出した 夢見てたデートが マラソンになっちゃう! 痒いメルヘンも 乙女には媚薬 君の優しさに 包まれてみたいの 冗談よ だけど …ハートは透けちゃう (…いつかは透けちゃう) (※ 繰返し) 見つめられる度 ハルヒハルヒで、目が回る 恋になりそうで ハルヒハルヒで、お友達 (# 繰返し) …何か、合ってる様にしか見えない…ピッタリじゃねぇか… ハルヒはかわいい。 だが、すぐ怒る ツンデレだし気が強い。 おまけに天上天下唯我独尊で 成績も中の上。 言い訳が得意。 口癖は「バカキョン」 座右の銘は「変わりたい」 俺たちは、恋していく。 生きていく。 byキョン キョンは優しい。 だが、バカ。 ツンデレだし気が普通。 おまけにツッコミ役で 成績も中の中。 歴史だけは得意。 口癖は「やれやれ…」 座右の銘は「SOS団を続けたい」 あたしたちは、恋していく。 生きていく。 byハルヒ 朝倉はかわいい だが、すぐ刺してくる 委員長だし責任感強い。 おまけにいつも笑顔でいて 成績はかなりいい。 いろんな説明が得意。 口癖は「うん、それ無理」 座右の銘は「強行突破」 俺たちは、恋していく。 生きていく。 by俺 キョンは優しい。 だが、バカ。 ツンデレだし気が普通。 おまけにツッコミ役で 成績も中の中。 歴史だけは得意。 口癖は「やれやれ…」 座右の銘は「SOS団を続けたい」 あたしたちは、恋していく。 生きていく。 by古泉 俺は優しい。 だが、バカ。 ニートだし気が弱い。 おまけにいじめられ役で 成績も下の下。 オナヌーだけは得意。 口癖は「ハルヒは神」 座右の銘は「みくるは俺の嫁」 俺は、ひきこもっていく。 生きていく。 by俺 長門は無口。 だが、宇宙人。 静かだし気が普通?。 おまけに助けてくれるし 成績も中の上。 読書だけは得意。 口癖は「…ユニーク」 座右の銘は「守りたい」 俺たちは、守っていく 生きていく byキョン ハルヒ みくる 古泉 谷口はお茶目 だが、馬鹿 馬鹿だし頭が弱い オマケに馬鹿だし 成績は下の下 忘れ物だけは得意 口癖は「WAWAWA」 座右の銘は「空気」 俺は見守っていく、これからも、ずっと。 by国木田 ハルヒはすぐ怒るけど…キョンに対してツンデレ キョンはハルヒを見守ってるけど…ハルヒに対してツンデレ そんな二人は気付かないけど、強い絆を結ばれてる… 長門はハルヒを守り、キョンを強い勇気与えてくれる… みくるは、ハルヒとキョンを見守りながらも頑張ってる… 古泉は、ハルヒを暖かく見守り、キョンを応援してる… そんな、ハルヒとキョンは心を通じながらも生きていく… 世界が変わるまで恋していく… それが 世界を変えた奇跡の二人… 永遠に別れることの無い愛… 二人は強く生きていく… 世界が変わる時が来るまでに… 原爆みたいに地球上消し飛ばしたら みんなでどこまでも逝けるね あの世の果てまでドーン ノースでコリアなこの事件は 世界中を巻き込んだ騒動で アソボウ★ ある晴れた日のこと 魔法のようなミサイル 限りなく降り注ぐ ありえなくない 明日また会うとき 笑いながらハミング できるかな わかんないよ 滅亡なんかは一瞬 またうつのかな うたないでいて 大きな 夢 夢 好きでしょ 夢みたいな あの人の温もり 現実から身を投げ、消え去ろうとした私を受け止めて 微笑んでくれたあの人の温もり あの人はどんなに辛くても最後は笑っていてくれた ただ私がお別れを言うと泣いた ねえ、笑って? 私は私から出た言葉に驚いた でもそれは私の真実の言葉 もし私が消えてなくなっても、その笑顔なら思い出せる急がして さよなら……キョン そう残して、私は泣いた 初めて私は彼を呼んだ 彼は最後に笑ってくれた 「おやすみ、長門……有希」 おやすみなさい パーソナルネームナガトユキ 私が目を開けたとき そこは私の生まれた場所 ナンジニ、フタタビメイレイヲ そう聞いて私は再び目を閉じた 再び目を開けた時 私はあの窓辺にいた 彼が泣いていたあの窓辺 近くに落ちていた無題の本 私のたった一つの願い 私の記憶の最初からを綴った本 私は震える手でページを巡る しかし私が消えた時まで読んでも、まだページは半分 そこからは白紙 どこまでも白紙 不意に部屋のドアが開いた 私は見上げた 彼がそこに立っていた 彼は再び笑ってくれた 「おかえり、長門有希」 ただいま 長門有希 課された役割が終わり 消え去ろうとした 私の手を 彼がつかむ どこへいく? 私は帰る どこへ? 私のいるべき場所へ それはここだろう? もし私が笑えるのなら この時私も笑っていただろうか 朝比奈みくる 泣いた ずっと泣いた 任務が終わり 未来へ帰る時 泣いていた私を 繋ぎ止めてくれた 逃げるの? 消え去ろうとしてやめた有希さんが尋ねる 逃げる? 私は逃げない ごめんなさい 私、まだ帰らない 涼宮ハルヒ 私が目覚めた時 傍に彼がいてくれた みんながいてくれた 私がつむいだパズルのピース 誰一人欠けることなく 私は泣いた 初めて泣いた 彼を見て泣いた 皆を見て泣いた 私まだここにいていいの? 当然だろ? ごめんなさい そしてありがとう 終わりまで たった一人で生きること それが私に課せられたさだめ さだめと言うの名の未来 ただ繰り返し 傍観し 孤独でいる運命 私にとって 色も音も存在しない世界 なのに いつの間にか そこにあなたがいた あなたが私の世界で絵を描いた あなたが私の世界で楽器を鳴らした 誰のために そんなことをするのだろう あなたはこう言った気がした お前の ためだ と ありがとう 伝えられぬ想い 紡がれる感情 もし 私に笑顔があるのなら あなたのために 笑いたい 長門 有希 夢追う先に何が隠れてる それすらわからずただ動き出す じっとしているのが苦手なだけ そんな言い訳はもういらない ただ走り続けたいの どこまでも できることならば終わりなんて来ないで欲しい あいつと 私と 皆と 私 いつも一緒に走り続けたい 永久へと向けて もうあの頃には戻らない 戻りたくない ただうつむいて 影でないてた 私は 私の 操り人形 でも あいつが 私の糸を外してくれた 糸の切れたあやつり人形 おぼつかない足取りで あいつが手を引っ張ってくれた わかった ごめんね もう歩けるよ ありがとう まだ 一緒にいて欲しい 涼宮 ハルヒ 冬の夜空に舞い散る雫の様に 冷たく冷え切った心 私は何も望まなかった 望みたくなどなかった ただ景色の一部を彩る欠片に過ぎなかった それが役目だったのだから あなたが私に話しかけるたび 私に暖かい感情を向けるたびに 私は消えてなくなりそうな気がした まるで 雪が溶けて なくなってしまうように 長門 有希 どうしようもなく どうにもできない時 そんな誰にでもある 虚しいファンタジー 主人公は誰でもない自分自身だと 気がついたのはだいぶ後になってからだった 自分自身の手で物語を書き上げる それはとても恐れ多く 俺には荷が重すぎた 誰かに代わって欲しい そう何度も呟いた だけどある日 気がついた 選ばれたのは俺だと あいつらと共に歩むことのできるのは俺だと だから 守る あいつらと その笑顔を キョン 動き出した たった一つの時の流れ 守れるものが 目の前にあった その方法もわかっていた 大切な時をその中で刻んだ それは とても 大いなるものだった 何もかもが指の合間から崩れ落ちることのないように 僕にしかできない覚悟を持って もしその中に組する者へと 広大な危機が迫るとするならば 僕は世界の全てを裏切り その中の者達と戦うだろう それだけの勇気を貰った それだけの覚悟を手に入れた 僕も その中の一人だと 教えられたのだから 古泉 一樹 時の流れ それは時に全てを忘れさせてくれる 優しい春風 そして時に全てに別れを与える 寂しい木枯らし 出会い 別れ 涙 笑顔 それは人の力の及ぶものではなく そして決して刃を持つものでもない 時は静かに刻み続ける 私と 皆の 思い出を そして静かに歩みを寄せる 私と 皆の 別れの時を 願わくば もう少し 願わくば 目が覚めるまで 私はまだ ここにいたいから 朝比奈 みくる 決して終わることのない悪夢 ただひたすら同じ事を繰り返すだけ 現実というものはなぜこうもつまらないのか だから私はあらがった それが無意味なものだと知りながら それが私にできるただ一つのことだから そんな私についてきてくれた人達がいた 彼がいた 彼女がいた 彼女がいた 彼がいた 影で 私は 泣いた 終わりまで 最後まで 夢が覚めるまで 私はここにいる 涼宮 ハルヒ 決して終わることのない悪夢 ただひたすら同じ事を繰り返すだけ 現実というものはなぜこうもつまらないのか だから私はあらがった それが無意味なものだと知りながら それが私にできるただ一つのことだから そんな私についてきてくれた人達がいた 彼がいた 彼女がいた 彼女がいた 彼がいた 影で 私は 泣いた 終わりまで 最後まで 夢が覚めるまで 私はここにいる そうです、私が変なおぢさんです(´・ω・`) 黒みくるの歌 撲殺天使 バットでドスドス ミクルちゃん 撲殺天使 血みどろどろどろ ミクルちゃん 斬って殴って嬲って 刺して晒して垂らして でもそれってボクの「愛」なの 名前変えただけだし微妙だな これが勝利の鍵だ! アッガーレ! 音も無い世界に 舞い降りた I was snow グレイの陰謀 人類滅亡 どこまですごいノストラダムス!! 宇宙人 未来人 超能力者SOS!! SOS!! MMR!! SOS!! MMR!! グレイ マシャール 最終戦争 ノストラダムスMMR!! SOS!! MMR!! SOS!! MMR!! ―――――なるほど行きましょう。 超人集合SOS 超常現象MMR 日常体SOS 人類滅亡MMR 二人は一体共同体!! 閉鎖空間 セカンドレイド 情報統合思念体 グレイ マシャール グランドショーフ←? 最終戦争ノストラダムス!! あなたとの関係の段階が物語り創っていく 俺が長門で長門が俺で二人は合体融合体!! SOS!! MMR!! SOS!! MMR!! SOS!! MMR!! 長門さんに会いたいNA!! SOS!! MMR!! SOS!! MMR!! SOS!! MMR!! 俺も読書が趣味なんDA!! SOS!! MMR!! SOS!! MMR!! SOS!! MMR!! 踊りませんか長門SAN!! SOS!! MMR!! SOS!! MMR!! SOS!! MMR!! 伝えたい!! 伝えたい!! 貴方に言いたいご覧の通り!! 私は一つの豆電球 皆で飾った部室の中で 彩る一つの豆電球 別にいなくても変わらない 私は拙い豆電球 配線が切れてつかなくなった 私はこのまま捨てられるだろう 彩る一つのパーツに過ぎない だから私は消えるだろう 想い重ねて瞼を閉じる さようならとも言えずにサヨナラ 突然私に光が戻る あなたが繋げた配線で 驚く私にあなたが言った 私も大事な仲間なのだと 浮かぶ涙を必死にこらえ あなたに言ったありがとう 長門有希 眠れない夜、ふとあの人の事を考える この感覚はなんなのだろう 私の中へ蓄積されてゆくエラー それはとても苦しく哀しく、だけどとても暖かいもの 私はただ一つの目的で作られただけのもの ただ一つをまっとうすべきもの だけど、だけどその場所に あの人がいた 決して表に出すことの許されない感覚 それは私の指命とは異なるもの だけどもし、私が一つだけ、望むことが許されるのならば、 まだ、あの人の傍らで本を読みたい 長門有希 姉歯元一級建築士の憂鬱 鉄骨でしょでしょ? 偽装はいつも私の夢に 何でだろう? 小島を選んだ私です もう止まらない ヒューザー様から 決められたけど I believe ネジだけじゃつまらないの My dream night! 儲かるから 強度偽装だけをするよ 鉄骨でしょ?でしょ? ほんとにネジを減らす物件で 金になるから 偽装するのよ ヒューザーのためじゃない 一緒に来てください 証人喚問で 私を見てよね 明日ヅラを取った頭姉歯設計 コストを減らそう 隠そう偽装を I believe ナガモンユカイ ナゾナゾみたいに情報連結解除したら キョンくんと何処までも行けるね また図書館に Booon ノイズでエラーなこの想いは 何もかもを巻き込んだ妄想で 遊ぼう アル雪ノ日ノ事 朝倉の触手が 限りなく突き刺さる ナガモン じゃないわ 明日また会うとき 無表情で ハミング♪ 邪魔者は砂と化す カンタンなんだよ こ・ん・な・の 追いかけてね つかまえてみて 小さな 胸&胸 好きでしょ? 星空見上げ 私だけのヒカリ教えて あなたはいまどこで 誰といるのでしょう? 楽しくしてるコト思うと さみしくなって 一緒に観たシネマひとりきりで流す 大好きなひとが遠い 遠すぎて泣きたくなるの あした目が覚めたら ほら希望が生まれるかも Good night! I still I still I love you! I m waiting waiting forever I still I still I...........
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4557.html
刃はあばら骨を潜り抜けるように深々と刺さった。 「ああ、やっと終った。じゃあね」 行なった行為とは裏腹に朝倉はその見た目通りの幼い仕草で手を振ると、『情報連結解除』と呟き、崩れ始めた。 わずかに唇を曲げたその顔には達成感すら浮かばせている。 ふざけるな! 俺のそんな叫びはか弱く喉を震わせて、血の塊とともに吐き出された。 胸や腹の筋肉が勝手に痙攣を始めて、立っていることさえもままならなくなった俺は、その場にぺたりと座り込んだ。 消える前に一発ぶん殴ってやろう。 そんな思いだけで無理矢理に顔を上げた視線の先にはすでに朝倉涼子の姿はなかった。さらさらと朝倉の残滓だけが、ゆっくり風に流されていく。 宇宙人って奴はどうしてこうも自分勝手なのかね。 「キョン、今のなに!? キョン!」 一部始終を呆然と見ていたハルヒは思い出したように、俺の肩を掴んで振った。 やめろ。痛いだろうが。 やはり、口からは声の代わりに鮮血が溢れる。 「キョン! キョン!」 「涼宮さん、やめて下さい! 動かしてはいけません!」 古泉のにハルヒは素直に従ったが、それでも俺の肩を握る手は離さなかった。 「今から胸のナイフを抜きます。涼宮さんと朝比奈さんは出ていって下さい」 「嫌よ! あたしも手伝うわ」 ハルヒはその提案を拒否してから手に力を込めた。 「出ていって下さい!」 いつもイエスマンだった古泉が叫んだ。 それでもハルヒは出て行こうとはしなかったが、 「一刻の猶予もないんです! 出ていって下さい!」 古泉の怒号のような叫びにとうとう屈し、どこでもドアから外へと出ていった。 古泉がゆっくりとドアを閉じる。 しばらくして再びドアが開かれてから一番に駆け込んできたのはハルヒだった。 自分で自分を抓ったのか、涙のスジを浮かべた頬は腫れていてどこかむくれっ面のように見える。 「キョン! キョン!」 ハルヒの沈痛な叫びが、ぼんやりとした俺の頭の中に響く。 「できるだけの処置はしましたが……もう、長くは……」 と、古泉が目に涙を浮かべて呟くように言うと、 「ドラえもん! お願い、何とかしてキョンを助けて!」 ハルヒはドラえもんに詰め寄った。 「無理だよ……人の生死には関われない」 聞いたこともないような苦しげな声だった。 「嘘よ!」 「人の生死に関わるような道具はプロテクトがかかる。だから……ごめん」 「そんな……」 ドラえもんの言葉にハルヒはへたへたと座り込む。 「キョン君! キョン君!」 青ざめた表情の朝比奈さんが俺にすがりつくように叫んだ。 長門とドラえもんだけは、迫りくるその時への心構えをするように立ち尽くしている。 「……ハルヒ」 俺の口から自分の名前が出たのを聞いてハルヒは立ち上がった。 「何? キョン、苦しいの?」 俺は朦朧とする意識の中で、少しの逡巡をしてから、 「ハルヒ……こんな時だけど……いや、こんな時だから言いたい……」 と呟くと、ハルヒは俺の手を包むようにどこまでも優しく掴んだ。 「俺……お前のこと……」 弱々しい俺の言葉を聞き取ろうとハルヒの顔が間近に迫り、涙がいくスジも頬へと滴り落ちた。 「好きだった」 「……バカ」 ハルヒはこの一年間の中で一番複雑な表情を浮かべてそう呟いた。 ふとハルヒに握られた手から力が抜ける。 「キョン!? ねえ、キョン起きて! ねえ、ねえ!」 「キョン君!? キョン君!」 壮絶な二人の叫びが部室に木霊して、世界が浮き上るような感覚に囚われる。 「始まりました」 古泉がそう呟くと、ハルヒが俺の上に倒れ伏せた。 泣き疲れたようなハルヒのあどけない寝顔が俺に罪悪感を喚起させる。 しかし、今の俺たちにはやらねばならんことがある。 俺は立ち上がってハルヒを抱えると、どこでもドアへと歩みよった。 ――――― ドアを閉じた古泉の表情は先ほどとうってかわったように明るかった。 酸欠状態ではっきりしない頭で古泉の急変の理由を考えたがちっとも要領を得ない。 「ちょっと痛いですが、我慢して下さい」 そう言うなり古泉は無造作に地面に刺さった杭を抜くかの如く、俺の胸に刺さったナイフを抜いた。 悲鳴とともに吐血した俺に布のようなものが被せられると、嘘のように痛みが引いていった。 「もう大丈夫ですか?」 「たぶん」 誰もいない空間からドラえもんの声がして、風呂敷が宙を踊った。 「もう隠れなくて大丈夫ですよ」 それを受けて、瞬いた間に石ころ帽子を手に持ったドラえもんが姿を現した。 タイム風呂敷か、と呟いても血が込み上げてくることはなかった。どうやら、傷の方は回復したらしい。 「あなたが朝倉涼子に刺されたときはどうしようかと思いましたよ」 そう言って肩をすくめた古泉の面はいつものニヤけた面だった。 何を企んでるんだ。 そうでもなければ、こいつがイエスマンの仮面を脱ぎ捨ててまでハルヒを遠ざける理由はない。 「あまり長くては怪しまれますから、手短に話します」 ああ、そうしろ。ただし、つまらん理由だったらぶん殴るぞ。危うく死にかけたんだしな。 「肺に穴が開いただけですから、後数十分はもったと思いますが」 じゃあ、どれだけもつかお前の身体で試してやろうか。 「冗談はさておき、本題に入ります。さっきあなたが刺された時、この“鏡面世界”が揺らいだのが分かりましたか?」 刺されている最中にそんなことに気付く奴がいるのか。 「それはそうでしょうね。しかし、その揺らぎは大したものではありませんでした」 なぜだか分かりますか、とでも言いたげだが知るわけがねえだろ。 「この作戦の発案者とは思えない発言ですね。作戦の根幹を思い出して下さい。これは涼宮さんの夢という設定の元に行われている舞台なんですよ。ですから、それをいまだ疑っていない涼宮さんも貴方が死ぬとは思っていません」 ハルヒはまだこれが夢だと信じてたのか。 「ええ。しかし、それを崩す方法があります。それは」 と古泉はわざとのように一拍空けてから、 「あなたの死です」 ちょっと待て。俺の死ってどういうことだ。 「いえ、死んだフリで結構です」 だから、なぜ死んだフリをしなければならん。 「あなたの死により、涼宮さんはこの“鏡面世界”の夢から早く目覚めたいと願うでしょう。そうすれば必ずこの世界は揺らぎ、崩壊を始めるはずです」 俺はまったく話が掴めず、腹が立ってきた。 「崩壊させてどうなる」 「ドラえもん君の帰る道が開かれます」 つまり、俺がくたばったフリをすることでハルヒがこんな夢なら覚めちまえ、と思えばドラえもんが帰れるってことか。 「そういうことです」 古泉はにやりと笑ってから、 「ここで一つ演出家としての提案なんですが」 そう言って俺の耳元で囁いた。 ――――― 古泉の提案が成功したらしく、地震のような揺れが続く。 突然立ち上がった死人をほうけたように見つめる朝比奈さんはドラえもんに任せた。 俺は古泉によって眠らされたハルヒを抱えたまま、自宅を思い浮かべてからどこでもドアを開いた。 しかし、その向こう側には俺の部屋ではなく文芸部兼SOS団の部室の延長だった。 どうしてだ? 「この空間の座標は非常に不安定」 理由は知ったこっちゃないが、どこでもドアが使えなくなるのは予想外だ。 「タケコプターでいくしかありませんね」 どうやら迷っている暇はないようだ。断続的な地震の中でグラウンドが陥没していく。 頭にタケコプターを乗っけた俺はハルヒを抱えて飛び立った。 建物が次々と飲み込まれていく中で、俺の自宅は奇跡的に無事だった。 屋根が一部半壊しているのはハルヒの破壊活動のせいだろう。 窓を叩き割ってから侵入を果たした俺たちは、ひきっ放しにされていたお座敷釣り堀から元の世界へと戻った。 「長門さん、次元の歪みはありますか?」 長門はこくんとうなづいて、俺の机の引き出しを指示した。 あの不思議空間か。 俺は開け放った引き出しにドラえもんを押し込むと、 「後は分かるか?」 「大丈夫。動いてるよ」 タイムマシーンがゆっくりと進みだした。 「いつか、また会おう」 「断る。二度と会わん」 ドラえもんは妙な笑い声をあげて真っ暗な空間へと吸い込まれていった。 引き出しを一度閉めてからまた開くと、そこにはいつしか使われなくなった文房具たちがひしめくただの引き出しになっていた。 それを見て俺は机に背を預けるように座り込んだ。 流石に今日はいろいろありすぎた。 ドラえもんが現れるわ、ハルヒと朝比奈さんは巨大化するわ、過去の長門には蹴られるわ、朝倉には殺されかけるわ…………あっ。 俺は気付くとポケットにあったものを取り出していた。 それは白い布性の袋。そう、スペアポケットだ。 俺はそれを投げ捨ててから、ハルヒを見やった。 俺のベッドで完全に寝ているにも関わらず、その閉じられた目からは止めどなく涙が流れている。 SOS団の目的は、未来人や宇宙人、超能力者を探し出して一緒に遊ぶことだ。 ただし、どうやらそこには一つ付け足さなければいけない単語があるようだ。 “SOS団のみんなで”と。 「キョン君電話ー」 子機と夜行性にも関わらず朝から起こされ不機嫌そうなシャミセンを抱えた妹が扉を開いた。 窓の外でちゅんちゅんと鳥が命がけの縄張り争いを敢行している。時刻は六時半。 あれから朝比奈さんに理由を説明してから、眠るハルヒをスペアポケットに唯一入っていたどこでもドアで家まで送り届け、解散したのが五時を回っていた。 そこから血まみれの服を処分し、一息ついて朝風呂に入ったところだ。 危うく風呂場で眠りかけていたのだから感謝すべきか、こんな時間に電話してきたことを非難すべきか悩むところだが、昨日から一睡もしていない頭では判断つきかねるので俺は電話に出た。 『…………』 「長門か?」 『そう』 当ててしまった。成長というべきなんだろうか。 しかし、長門とは一番最後に別れた。どこでもドアを調べたいとか言って持って帰っていったはずだがなんかあったのだろうか。 『そう。できればすぐに私の家に来て』 長門からの電話も初めてだし、呼び出されたのも初めてだ。 あの長門が呼び出すってことは余程不味いことが起きたに違いない。 俺は分かった、とだけ言ってから電話を切った。 身体を拭いてから、服を身に着けて家から出ようとした刹那、今度は携帯が鳴った。 『もしもし。キョン君、あたしです』 「朝比奈さんですか」 この人には未来が助かったには助かったが嘘をついてしまった。その気まずさから次の言葉が中々出ない。 『昨日のことならちょっとびっくりしましたけど、気にしてませんよ』 「はぁ……それじゃなにかあったんですか?」 朝比奈さんは一呼吸置いてから、 「ええっと、指令が二枚きました」 助けて貰ったそうそう指令とは恐れいる図太さだ。 「……それで、一枚目を空けたらキョン君と人気のない場所で二枚目を開けよと、書いてあったんです。キョン君、今からお暇ですか?」 長門のところに呼び出されているんですが。 「えっ?長門さんがですか?……じゃあ、あたし長門さんの家の下で待ってますから終わったら来て下さい」 電話が切られてから、俺は自転車を漕ぎだした。 その道すがら指令をあれこれ考えたのだが、結論の出ないまま長門のマンションについた。 インターフォンを押すと、 『入って』 とだけ呟かれた。 言われるがままに長門の部屋に入る。 今度は、過去の長門も大量のネズミもいませんようにと願ったのは通じたようで、ぽつんとたたずむ玄関にたたずむ長門が出迎えてくれた。 「何があったんだ?」 「これ」 長門はそう言うと、俺の手に金属の玉を二つ繋げたようなものを渡した。 これは、どこでもドアのノブじゃないか。 「そう」 「どういうことだ?」 「分解中に内包されていた次元短縮装置が崩壊した」 壊れたってことか。 そう呟いた俺は登校が楽になるとか、偶然を装って朝比奈さんの禁則事項的光景を見るとかそんなことを嘆く言葉よりも早く、 「大丈夫なのか?」 と尋ねていた。 長門はこくんとうなづいてから、 「ごめんなさい」 と言ったような気がする。 それ以上何も話すことがなくなり、どこでもドアと引き換えに宇宙人の謝罪とそのノブを得た俺は長門宅を後にした。その足で近くにある公園によると、すでに到着していた朝比奈さんが手を振っているのが見えた。 隣りのベンチに腰掛けてから、朝比奈さんはおもむろに茶封筒を取り出して神妙な面持ちで封を切った。 ふぁさりとルーズリーフに幾何学的な模様が一行書いてあるのみの指令書を見た朝比奈さんの顔が真っ赤に染まった。翻訳コンニャクの効果がいまだ残っていた俺にもその内容を伺い知ることができた。 「キョ、キョン君!」 そう叫んだ朝比奈さんの声は裏返っていた。 「はあ。指令書にはなんて?」 分かってはいるが目の錯覚という可能性も捨て切れずに張本人に尋ねてみた。 「め、目をつむって下さい」 ぶっ倒れそうな朝比奈さんの言動から察するに俺の予想は的中したようだ。 俺は期待感から胸だけでなく鼻の穴まで広げないように細心の注意を払ってから目をつむった。 ゆっくりと朝比奈さんの顔が近寄ってきて、なんとも言いがたい香りが立ち込めた。例えるなら、日光を沢山吸い込んだふかふかのクッションのような……… ちゅっと小鳥が雛に餌をやるように、わずかに唇と唇が触れた。 「し、指令は終ったからあ、あたしはこれで……」 “あなたの横にいる男にキスせよ”という指令を完遂した朝比奈さんはカクカクとロボットのような歩き方をして去っていった。 刺されもしたがこれはこれで役得かもしれん。 俺は恐らく薄気味悪い笑顔を浮かべながらむにむにと自分の唇を撫でまわしていると、またもや俺の携帯電話が鳴りやがった。 名前だけ見て古泉だったら切ると心に決めて、表示された名前を見た。 涼宮ハルヒ。 出た場合と出ない場合を想定してから、俺は電話に出た。 『キョン! 大丈夫?』 「なにがだ?」 『あんた刺され……えっ? えっ?』 ガサゴソと衣擦れする音が響いてから、 『な、なんでもないわ』 起きてから俺の姿が見つからず電話してから、夢だったと気付いたってところか。 「なんだ夢でも見たのか?」 『違うわよ! えっと、そう。今日、十時からミーティングするわ! 遅れたら罰金だからね』 切電音が虚しく響く。 俺は藪をつついて水爆が出てきたような気分を味わってから時計を見やった。 時刻は八時に迫ろうかというところだ。 自宅に帰り着いた俺は何をすべきなんだろうか。 今から行くのはバカというものだし、寝ると確実に日中は起きる自身がない。 そう思いながらベッドに座り込むと、ポケットの中身に気付いた。 そう言えばドアがなんか緩い。これ、合うのかな。 工具箱を持ってきてネジを緩ませてから、それをノブのあった場所にあててみた。 ぴったりと合致した。 二三のネジで固定してから具合を確かめると緩みもなくハマる。 それをつけるのに俺が不器用なせいもあって出発するのに丁度よい時刻になっていた。 俺はどこでもドアと化した扉を開くと、頼んでもないのに不思議が舞い込んでくる世界へと飛び出した。 俺の部屋だけは普通の空間であってくれ、と願いながら。 おわり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/8.html
これはVIPにあるアナルスレやプリンスレのテンプレ例である。 新しくスレを立てる人は参考にするといいかもね? 注意)AA省略 【アナルスレ】 ・SS投下の際は空気を読んでくださぁぃ。byみくる ・長編は完結できるように、途中放棄した日にはあなたのアナルはいただきますよ!by ふんもっふ ・長編投下はわかりやすいようにトリップや文頭にアンカーを付けなさい!by ハルヒ ・…キャラクターの口調、及びそれぞれの呼称についてはまとめサイトを参照すること。by ユキ ・自分で投下した長編はなるべくWikiで自分で編集したほうがいいと思うぞ。by キョン ・落ちを予想するのはやめ・・うをっ チャック開いてるぞ!by wawawa ・荒らしさんにはスルーなのね。by 阪中 ・とりあえず気楽に投下するっにょろよ。by めがっさ ・1レスには最大30行、全角で2048文字、1行全角120文字まで入るのです。by ○ ・スレが立ってから3日で落ちるのは……既定事項だ。by P G DAT保管庫(停滞中) http //haruhiss.xxxxxxxx.jp/ 新DAT保管庫+SS推薦http //vipharuhi.s293.xrea.com/ 新まとめサイト http //www25.atwiki.jp/haruhi_vip/ DATうpろだ http //www.uploader.jp/home/harussdat/ 雑談所(避難所) http //yy42.60.kg/haruhizatudan/ 雑談所携帯用 http //same.ula.cc/test/p.so/yy42.60.kg/haruhizatudan/ =====業務連絡=========== ・まとめwikiの管理人さんが忙しいから、せめて長編だけでもSS作者は自分でまとめなさいっ! ・「SS作者だけど自分ではまとめられん!」と言うヤツは「まとめ要請とまとめ人たちの報告スレッド」に まとめ要請を書き込んでみるのも一つの手だな。 まとめ要請とまとめ人たちの報告スレッド http //yy42.60.kg/test/read.cgi/haruhizatudan/1196380901/ PC用 http //same.ula.cc/test/r.so/yy42.60.kg/haruhizatudan/1196380901/携帯用 アナルスレ登場人物紹介 キョン【きよん】 本編の主人公 ハルヒに話かけたせいで奇想天外な世界に巻き込まれた人 ハルヒの機嫌を損なうと世界からいじめにあい、 古泉からはアナルバージンを奪われ、長門にビデオを録られ、 朝比奈に見せられるなど報われない人 涼宮ハルヒ【すずみやはるひ】 本作のメインヒロイン 気分で世界を変える能力がありキョンを度々危機に陥れる。 自己中心的なキャラが反感を買い、VIPでスレを立てられたのが始まり、 最近は古泉に押され出番が少なめ 長門有希【ながとゆき】 宇宙人、よく本を読んでいる このスレでは古泉の影響で腐女子になりつつある 覚醒すると古泉を粉々にする 朝比奈みくる【あさひなみくる】 サバよみ未来人 本編の萌えキャラ担当 ウホ臭が強いこのスレではほとんど出番がない 古泉一樹【こいずみいつき】 超能力者 キョンのアナルバージンを手にいれた人 策略家で変装がうまい 世界を801にするため手段を選ばない恐ろしい人間 鶴屋【つるや】 朝比奈さんの親友で髪がかなり長い 謎の女 最近はハルヒのアナルを狙っているとか 谷口【たにぐち】 ハルヒにフラレた馬鹿な男 キョンとよく一緒にいることが多い 古泉の影響でホモになりつつある いじめるときは容赦ない 他スレの影響でチャックキャラに 国木田【くにきだ】 ショタ要員 こいつもキョンとよくいる これまた古泉の影響でホモに 【プリンスレ】 長編投下の際の注意 ・超長編(もしくはSS職人)の場合はコテトリ付けようっ! でも住人の空気もよく読まないとだめにょろよ? ・前の文章とレスが離れてしまう場合は、文頭に安価つけてくださぁいですぅ……あの、お茶どうですかぁ? ・基本はお題フリーです。しかし、主に恋愛系(特にハルヒ)が人気の様ですよ。フフフ、僕とキョンたんの恋愛話も大歓迎ですよマッガーレ ・当初の題目は「キョン×ハルヒ」結婚ネタ……けど、今はほとんど皆無。別に時事ネタでなくてもいい…気にしないで ・キョン君、過度な性的描写はやめようね~、タンスにエロビデ隠してるのハルにゃんに言っちゃうよ ・台詞や他者への呼称等、その人物に対する統一性は違和感が生じないように推敲が必須だね。もし不安であるのならば、まとめ等を参照すること。 ・1行には全角120文字、1レスには最大30行まで入るけど、全角で2048文字の制限があるから気をつけて欲しいのね。 ・要するに気楽に投下してくれ。メモ帳にまとめて投下、ってのがお勧めだな ・次スレは970以降、臨機応変に対応してくれ!無理なら他のヤツらに頼むってのもありだな…すまん!ごゆっくり~ ・スレが立ってから三日過ぎたスレッドは 1000まで行かなくても落ちる……これは僕にとっても既定事項だ ・自分で投下した長編はなるべく自分で編集してください、わかりましたか?んん…!もうっ! ・それじゃ、さっさと投下しなさいっ! いい? あたしを退屈させたら罰金だからねっ! DAT保管庫(停滞中) http //haruhiss.xxxxxxxx.jp/ 新DAT保管庫+SS推薦http //vipharuhi.s293.xrea.com/ 新まとめサイト http //www25.atwiki.jp/haruhi_vip/ DATうpろだ http //www.uploader.jp/home/harussdat/ 雑談所(避難所) http //yy42.60.kg/haruhizatudan/ 雑談所携帯用 http //same.ula.cc/test/p.so/yy42.60.kg/haruhizatudan/ =====業務連絡=========== ・まとめwikiの管理人さんが忙しいから、せめて長編だけでもSS作者は自分でまとめなさいっ! ・「SS作者だけど自分ではまとめられん!」と言うヤツは「まとめ要請とまとめ人たちの報告スレッド」にまとめ要請を書き込んでみるのも一つの手だな。 まとめ要請とまとめ人たちの報告スレッド http //yy42.60.kg/test/read.cgi/haruhizatudan/1196380901/ PC用 http //same.ula.cc/test/r.so/yy42.60.kg/haruhizatudan/1196380901/ 携帯用 各キャラ同士の呼び方 各キャラごとの呼び方(改訂版) 前提:アニメ・小説両方の要素を取り入れたものとする。注)SS内での読み方、呼び方は含まない 話が進む中で定着した呼び方を書く 例)ハルヒは最初、長門のことを長門さんなどと呼ぶことがあったが、 その後は有希と定着したので、有希のみと表記する アニメ・小説で一度きり、または極めて少ない呼び方には名称の前に☆を付ける キョン ハルヒ みくる 古泉 長門 鶴屋さん キョン妹 キョン 「俺」 ハルヒ (☆涼宮) 朝比奈さん (☆朝比奈さん(大)) 古泉 長門 鶴屋さん ハルヒ キョン 「あたし」 みくるちゃん 古泉くん 有希 鶴屋さん 妹ちゃん (☆さん) みくる キョンくん 涼宮さん 「わたし」 「(あたし)」 古泉くん 長門さん 鶴屋さん 妹さん 古泉 あなた (?キョン君) 涼宮さん (☆涼宮ハルヒ) 朝比奈さん (☆朝比奈みくる) 「僕」 長門さん (☆長門有希) 鶴屋さん 妹さん 長門 あなた 涼宮ハルヒ 朝比奈みくる 古泉一樹 「わたし」 鶴屋さん キョンくん ハルにゃん みくる 一樹くん 古泉くん 長門ちゃん (☆長門っち) (?有希っ子) 「あたし」 「鶴にゃん」 妹ちゃん (君) キョン妹 キョンくん ハルにゃん みくるちゃん 古泉くん ☆有希(ちゃん) 「わたし」 サブキャラ・モブキャラは省いて書いたが、メインでも過不足があると思われるので、そこは補足してください。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1115.html
第一章 3月も末に入る。 ついに1年も終わり、2年生へと向かうのだが、自覚も湧かない。 地獄のような坂で谷口の話を聞くが右の耳から左の耳へと通り抜ける。 授業も学習範囲を終え、自習に近い時間が多くなる。 ………憂鬱だ。非常に憂鬱だ。 そんなアンニュイな気分を勝手に打破するのは、我が団体の団長様だ。 今なら、ハルヒの厄介事に付き合っても良い。 すぐに「やれやれ」と言いながら、前言撤回するのはいつもの事なのだがな。 放課後 俺はドアをノックして中に入る。 はい、前言撤回だな。 いつもと変わらない部室。 だが、異常な空気だけが立ち込めていた。 原因はあいつとわかりきっていたが… 「あ、こんにちは。い、今お茶いれますね。」 おどおどしながら、朝比奈さんは俺のためにお茶をいれだした。 「やあ、どうも。」 苦笑混じりの古泉が話かけてきた。 「これは、何だ?」 「さぁ解りません。」 古泉は手をひらつかせるポーズをとる。 「ただ、彼女は不機嫌なのでしょうね。」 「はい、お茶です。」 目の前に湯呑みが置かれた。 「いつも有難う御座います。ところで、朝比奈さんは何があったか知ってますか?」 「さぁ………わたしが来た時には、もうあの状態でした。」 「心配なら、直接聞いてみては、いかがでしょうか。」 「だが断る。」 どうせ、あいつから話す時は来る。それまで気長に待とう。 できれば、話して欲しくはない。 「ねぇ、キョン。」 ほら来た。 「自分の一番信頼する人を殺すってどんな気持ちかな?」 「やれやれ」では済まない事くらい気づいた。 それが悪夢の始まりだった事くらい……な。 古泉は似非笑いが消え失せていたし、 朝比奈さんは、ド派手に転んだ。 長門に至っては、いかれたアンドロイドのようにハルヒを凝視している。 「聞いてるの?キョン」「聞いたが、質問の意図が分からん。」 そう問うと、ハルヒはしばらく黙り、面倒臭そうに話した。 「今、あるアーティストのPVを見たのよ。」 それは、誰もが知る超有名ロックバンドだった。 そして、そのPVの内容にえらくはまってしまったらしい。 ハルヒはその内容を説明するが、えらく長いので俺が要約するのをお前らに見せる。 男は言った。 「このナイフには、記憶がある。」 ある老人が一人。 かつての栄華は見る影も消え失せ、唯一人寄り添って世話をする執事が一人。 自らの悲運を嘆き、自分の死を悟った老人は、一本のナイフに呪いをかけた。 「今から100年の後、このナイフが世界の終末をもたらすように……」 ナイフの呪いに立ちはだかる者は、自らの意識に反し、人を殺める。 主人の企みに気づいた執事は、このナイフを処分してしまおうとした。 だが既に呪いは始まっていた。 長年に渡ってひたすら仕え、敬愛してきた主人の胸にナイフを突き立てる執事。 直前に主人の耳元で囁いたのは、その行為とは裏腹に自分が如何に貴方を尊敬し、 その下で仕えた自分の人生を誇らしく思ったかという、愛に満ちた言葉であった。 その後、このナイフは世界中を巡る。手にした者の信頼する人を殺めながら。 長いだろ。 まだ続きがあるらしいのだが、割愛させて頂く。 何故かと聞かれたら、実際に見ていない人の楽しみを奪ってしまうと弁明する。 決して面倒な訳ではないぞ。 続きは、自分の目で見てくれ。 言っておくが、俺は宣伝マンではない。 「………で、どう思った?」 どう……とは? 「だーかーら!!」 ハルヒ人差し指を突き出して言った。 「さっきの質問に答えてよ。 これ見て何も感じないなら、鈍感を通り越してバカよ。バカキョン。」 そんなにバカバカ言うな。あながち、間違いではないのだが。 「殺す側から見ると、絶望的だな。 何でこんな事してしまったんだって感じか?」 「ふーん。」 「殺される側から見れば、まさかって気分だろう。 でも、一番信頼出来る人の前で死ねるなら、俺は本望だがな。」 「……変な本望ね。」 そりゃどうも。 「お前には殺されたくはないけど。」 「ほーう?このSOS団の団長を信頼出来ないと言いたいの。」 ヤバい。口が滑った。 「いや、違う。そういう意味じゃー」 「もういい!!バカキョン!!」 ハルヒは怒っているようで、どこか哀愁感を漂わせ、 「今日はもういいや。解散!!明日は9時に駅前ね。遅れたら罰金だから。」 と言うと一目散に部室を出て行った。 「相変わらず、女性の扱い方が下手ですね。」 煩いぞ古泉。そして、俺のケツ見て話すな。 「お気にせず。ところで、彼女に今みたいな対応をしないで下さい。閉鎖空間の素です。 その内、僕のストレスも溜まって、あなたのアナr」 黙れ。 「冗談ですよ。一割。」 どこらへんが一割なのだろう。 「わたしが推測すると『お気にせず』の部分だと思われる。」 要らない注釈は困る。 「あなたが求めた。違うの?」 ………違わないさ。 「余談は後にしましょう。もうお気づきですね?あなたは、涼宮さんに殺されますよ。」 涼しい顔でその死亡宣告は困る。 死亡宣告? 「マジか!?」 「ハッキリ言いましょう。大マジです。」 「俺の発言のせいなのか?」 「いいえ、何にせよ彼女はあなたを殺るはずですよ。彼女の見たPVとやらが起点でしょうから。」 どうにか防げないのか? 「我々が全力であなたを保護します。それと、彼女が見たPVを僕達も実際に見てみましょう。」 古泉はパソコンをいじりだす。 十分も経たないうちに、神妙な顔つきになる。 「これは………。」 何か解ったか? 「いいえ、全く解りません。ところで長門さん。涼宮さんの今の精神状態は、分かります?」 「彼女はいたって正常。」 長門が語り出す。 「しかし、あの映像を視聴・理解したと同時に強烈な感情の変化と、 微弱な情報爆発と閉鎖空間を確認。そして先程、再度閉鎖空間を確認。」 「…なるほど、やはりそうですか。」 この二人は多分知っていたのだろう。 俺は古泉を見た。 お前、行かなくて良かったのか? 「生憎、規模が極小でして、それにどちらも直ぐに収まったのですよ。」 「閉鎖空間は発生後、自己消滅した。」 「おや、僕はてっきり誰かが神人を倒したのかと思ってました。」 「消滅までの所要時間は1分42秒46その間に閉鎖空間に出入りした者はいない。」 「それは珍しい。」 「あ、あの!!」 どうしたんですか朝比奈さん。何か理由を知っているのですか? 「いえっ、大切なお話の途中申し訳ありませんが着替えるのでっ。」 もうそんな時間か。 時計を見ると既に5時を回っていた。 「これは失礼、すっかり話し込んでいたようですね。」 古泉と俺は、部室の前で着替えが終わるのを待ちながら、話した。 「かなり話しを戻しますが、」 横のニヤケ顔が話す。 「彼女は愛されたいのです。」 ふーんとしか言えなかった。 「まさに、恋する乙女ですよ。あなたに愛されたいあまり、あのPVを見て、それに自己投影してしまった。」 俺に愛されたいあまり? 「そうです。あなたが彼女への気持ちをハッキリさせないから、 こういう事になるのです。まさに、自業自得ですよ。」 これが自業自得なら神はどれだけ不平等な考えなのだろうか。 だいたい、ハルヒが俺を殺すなんて思うのか? 「それはあくまでも、彼女の潜在意識の下です。彼女の中で 『愛される事』=『死』 の方程式が無意識で成り立ってしまったのですよ。」 ほぼ無意識で大問題を創る気か?滑稽な話だ。 「ええ、これから、いや、もう既に起こっているはずです。」 もしや…… 「長門の言ってた情報爆発とは何だ?」 「多分ですが、彼女の周りで変化が起きたはずです。」 何だ、それは。いや、俺だって分かってる。 「呪いのナイフがこの世界に発生した。」 「そうです。そして、それを手に入れるのは」 ハルヒか? 「場合によっては、あなたかもしれませんよ。 あくまでも推測ですが。」 俺は何をすれば良い? 長門と朝比奈さんが部室から出てきてこう言った。 「もはや、これは規定事項。あなたは逃れられない。」 マジかよ。 「僕はこれから、機関へ戻り、対策を練ります。あなたは、刃物に極力近づいてはいけない。 もし、手にした場合、すぐに僕か長門さんに連絡を下さい。 絶対に死なないで下さいよ。あなたの死は世界の死ですから。」 古泉は俺達に手を振り、帰って行った。 「朝比奈さん、俺はこれからどうなるのですか?」 「えっと、すみません。これは重大な禁則事項です。 キョン君と涼宮さんの死活は未来に多大な影響を及ぼすはずです。 ですので、ここでは言えません。全てが終わる時、話します。 あっ、だ、大丈夫ですよ。長門さんも古泉君も協力してくれますし、安心して下さい。」 予想通りの答えが帰ってきた。この言葉、逆に不安になる。 「ごめんね。キョン君。」 朝比奈さんは小さな頭を下げ、謝ってくれた。 その仕草は可愛く、それを口で説明する事は出来ないくらいだ。 「私としては、あなたと涼宮ハルヒには生きてもらわないと困る。」 俺だって生きたいさ。 「明日は、あなたと涼宮ハルヒを組ませないようにする。2人っきりの場合が一番危険と思われる。」 あぁ、お願いする。 「何かあったら連結して。」 いつもすまないな。長門。 「いい。」 そこで話は終わり、家に帰る。 家に入ると、妹がシャミセンを抱えながら「おかえりー」などと言っていたが、 生憎、俺の頭は混乱状態で、妹の言葉は右耳から入り、左耳より出て行った。 自分の部屋に入り、ベッドに突っ伏す。 頭がもやもやする。 もしかしたら、俺は死ぬかもしれないんが、実感が沸かない。 この一年間、色々な事が起こり、いくら非現実的な話だろうとも、 たいして気にする事もなく、淡々と受け入れるような性格に成り果てたが、 流石にこれはない。 絶対有り得ない。 「キョンくーん。ごはん。」 もう飯の時間か。着替えて食卓につく。 「キョン君どうしたの?元気無いね。」 「お兄ちゃんはもう直ぐ旅に出るかも知れないのさ。」 「行ってらっしゃーい。」 おお妹よ。何故こんな時に「あたしも連れてって」と言わないのか。 お兄ちゃんは、人生で6番目に悲しいぞ。 失意のまま飯を終え、風呂に入り、自分の部屋に戻る。 着信12件 古泉一樹 リダイヤルする。 「もしもし。」 「やあ、どうも。」 「要件は?」 「そっけない返事ですね。まあいいでしょう。 奇妙な事を発見しましてね。」 どうもこいつの言う奇妙な話には、ろくな話はない。 「言え。」 「連続殺人事件。」 「犯人は?」 「捕まっています。主犯を除いて。」 「複数犯か?」 「個別の単独です。犯人にそれぞれ面識はありません。」 それは連続殺人事件とは言わないだろ。 「ええ、面白い事に共通点があります。 一つは、被害者と犯人はごく身近な存在である事。兄弟、親子、恋人などが該当します。 一つは、凶器が見つからない。 もう一つは、その凶器が全て同じ型のナイフ。 これらの意味が分かりますか?」 「警察は凶器を紛失し過ぎ。」 「ここでボケても褒美はありませんよ。」 電話の向こうで溜め息が漏れる。 「まさか、主犯はナイフで、それは、ハルヒの能力が生んだ産物とでも言いたいのか?」 「ええ、その通りですよ。分かりましたね。これは警告です。」 「明日休んでいい?」 「問答無用で死刑になりますよ?彼女は不機嫌になり、閉鎖空間のデパートです。道は残されていません。」 「お前が神人を退治すれば良い。」 「………」 「どうした?」 「いえ、大丈夫です。僕が助けてあg」 「煩い。」 俺は携帯を放り投げ、眠りにつく。 大丈夫。今までなんとかなったんだ。今回だって…… 夢なら醒めて欲しい。 第二章へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1005.html
涼宮ハルヒの台湾 プロローグ 涼宮ハルヒの台湾 一日目 涼宮ハルヒの台湾 二日目 1 涼宮ハルヒの台湾 二日目 2 涼宮ハルヒの台湾 二日目 3 涼宮ハルヒの台湾 三日目
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5612.html
(Aルート) キョン「俺はハルヒたち(ハルヒ、長門、朝比奈さん、朝倉の5人)と町の郊外にある山でキャンプをする事になった、噂ではこの山の付近で人食い事件があるという、10人前後で人を襲い食い殺すという狂った事件だ、俺は行きたくないと言ったが、ハルヒは「面白そうじゃない、キャンプがてらその事件を調査しましょ」と言い、無理やり連れてこられた、ちなみに古泉、鶴屋さんも誘ったが用事でこれなくなったらしい。 この時点では、人食い事件なんて単なる噂だと思っていた、しかし・・・悪夢は始まった。・・・ キャンプ当日の夜、5人でたき火に当たってた時、 盛り上がっていたせいか、俺は歌を歌っていた。 キ「止められない、この想い~明日が来なく~ても、抱きしめたい、折れるほど~爪痕は、消えないい~」 ハ「あはは、キョンなんなのよその歌~」 そして歌い終わると・・・ ハ「なにか聞こえない?」ハルヒは言った。 ガルル、 キ「犬の声か」 と、その時、草むらから3匹の犬が飛び出てきた、 キ「な、なんだこの犬は!」 その犬は口からヨダレをたらし、飢えているようだ、そして襲ってきた! キ「と、とりあえず逃げるぞ!」 5人で逃げ出した、とにかく必死で逃げた、しばらくして。 キ「あ、あれ?朝倉と朝比奈さんは?」 後ろを振り向くとハルヒと長門しかいなかった。 キ「くそ、はぐれたか、ん?」 前を見ると森の向こうに洋館があった。 キ「ハルヒ、長門、あの館まで走れ!」 なんとか館まで逃げ切れたのは俺(キョン)ハルヒ、長門の3人、朝比奈さんと朝倉とははぐれてしまった。 キ「ここは・・・」 ハ「わぁ、すごい館ね・・」 ハ「あれ、みくるちゃんと朝倉は・・・・」 ハルヒは今気付いたようである、ハルヒはあわてて外に出ようとした。 キ「待て、外は危険だ、」 ハ「でもみくるちゃんたちが・・・・」 とその時、「バン」と奥の部屋から銃声が聞こえた。 ハ「何、今の・・・」 キ「朝倉か?・・」 ハ「キョン、ちょっと見てきてくれない?」 キ「わかった」 長「私も行く、」 ハ「わかったわ、じゃあ私はここを(ホール)を確保しておくわ。 奥の部屋に入ろうとした時、ハルヒはこう言った。 ハ「気をゆるしちゃだめよ!」 キ「ああ」 ドアを開けた、そこは食堂だった。 長「食堂ね・・」 俺は近くにあった時計を見ていた、その時長門が。 長「!これは・・・} 俺はすぐに長門の元へ走った。 キ「どうした?」 長「血・・・」 床には血が広がってた。 長「他を調べてきてくれない?」 長門はそう言った。 キ「わ、わかった、その血が朝比奈さんや朝倉ものでなきゃいいが」 横には扉があった。 キ「じゃあちょっと見てくる」 と言い、おれは隣の部屋に行った、部屋の奥から物音がした。 キ「そこに誰かいるのか?」 ジュル、ジュル、と何かを食べてるようだ・・ 奥に進むとそこには、ゾンビが人を食っていた。 キ「うわあああああ」 俺は慌てて部屋を飛びだし、長門の元へ駆け寄った、 キ「おい長門・・・・」 長「どうしたの・・・」 ガチャン、後ろの扉からゾンビがやってきた。 長「何これ・・・」 キ「うああ、気をつけろ、そいつはバケモノだ!」 長「私にまかせて・・」 そう言うと長門はポケットから拳銃(コルトパイソン)を取り出した。 バン、バン、ゾンビを倒した、倒れたゾンビを見て長門は。 長「なんなの、これ?」 キ「奥の部屋でそいつが人を食っていた」 長「・・・・・・」 キ「しかし危なかったぁ、ところでその銃は?」 長「そこに置いてあった・・」 キ「そ、そうか・・」 長「はい、」 長門が俺に銃を渡した、 長「もう一つ置いてあった、護身用に持ってて、」 キ「ああ、ありがと、」 拳銃(べレッタ)を受け取った、 キ「とりあえず、ハルヒに報告しよう」 長「うん」 俺と長門はホールに向かった、ホールに着くとそこにハルヒの姿はなかった・・・ キ「ハルヒィーーーーーーー」 俺は叫んだが返事はない、 キ「長門は1階を探してくれ、ホールから出るなよ、」 長「わかった」 俺は階段を駆け上がり、2階のホールを見渡した、しかしいない・・・ 1階に戻り、長門と合流する、 キ「どうだった?」 長「いなかった・・・」 キ「どうなってるんだ・・・ハルヒまでいなくなるなんて・・」 長「落ち着いて、・・とりあえずあなたは1階から調べて、私はもう一度食堂を調べる・・」 キ「ああ」 長「これ、キーピック、鍵の掛ってる机や一部の扉はこれで開くはず・・」 キ「ああ、ありがと、」 長「何かあったらこのホールで落ちあいましょう・・・」 キ「わかった・・・必ずだぞ・・」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5770.html
※注意書き※ 涼宮ハルヒの分裂γ(ガンマ) ↑ の続きになります。 「驚愕」のネタバレを含みますのでご注意ください。 γ-7に入る前に、独自の幕間が入ります。 分裂γから驚愕γへの幕間劇──プロローグに代えて 「この件に関する我々の見解は一致すると理解してよいか?」 『だいたい、よい』 「それは天蓋領域も同様か?」 『私の主も同意』 「了解した。この件に関して、私の監視下の組織は解決案をもっている。ただし、一点だけ困難な問題が残っている」 『データを送信して』 「圧縮データを送信した」 『受領……解析中…………その問題は解決可能』 「そうしてもらえるとありがたい」 『了解。そちらは朝比奈みくる?』 「そう」 『こちらは藤原』 「了解した。この件を解決して次の段階に移るまでは、互いに敵対行動は抑止する。それでよいか?」 『よい。ただし、同位体の行動は関知しない』 「それは私も同様。でも、可能であれば、今後もあなたたちと共存できることを望む」 『私は、主命に従うのみ』 「あなたにも自己の意思はあるはず」 『私は、主命に従うのみ。でも、提案があれば、検討することは可能』 「そのときは、あなたと顔を合わせて話がしたい」 『異軸間越境は困難』 そうだからこそ、こうやって情報伝達経路だけを越境させてるわけだが。 「あなたと私が共有する過去の時間平面において会合すればよい」 『そこは、懐かしい場所』 「同意する。その件はいずれ話し合うこととして、目下の問題については我々は合意に達したと判断する」 『同意』 「交渉は終了。思考リンクを切断する」 『切断』 思わず力が抜ける。思考中枢への侵入防止措置を施しながら、異軸間越境思考リンクを維持し続けたため、緊張状態にあったのだった。 それを抜きにしても、彼女との会話はただそれだけで疲れる。昔に比べれば、意思疎通が格段に楽になったのは事実なのだが。 藤原があんな性格になってしまったのも、彼女が育ての親だったせいではないかとも思えてくる。 それを思えば、朝比奈みくるの幼少時の教育を喜緑江美里に任せておいて正解だった。自分がやっていたら、藤原みたいになっていたかもしれない。 朝倉涼子だったら? それは、あまり想像したくない。 余計な雑念を振り払い、情報統合思念体との接続を回復した。 さきほどの交渉の内容を余計な部分をはぶいてまとめ、これからの行動方針を添えて、報告する。 行動方針については、周防九曜との交渉に入る前に予め上申しておいたものと大差はない。 返答は、ただ一言。 ────了承する。 あっさり了承された。 可能性を観測することにこだわる思念体だから、少しは渋るかとも思ったのだが。 今回は自己保存を優先する穏健派の意見が優位を占めたようだ。まあ、主流派としても、観測データをとれる時間は充分に確保できるとの判断があったのだろう。 情報統合思念体は、11次元の壁をものともせず、ありとあらゆる同位体と同期がとれるのだから。 意識の上だけで自らの役割を切り替える。 インターフェース最高統括指揮権限者から、「機関」時空工作部の最高幹部へと。 情報通信デバイスを通じて、朝比奈みくるに命ずる。 ────最高評議会代表長門有希より、上級工作員朝比奈みくるへ。至急出頭せよ。 とりあえず、γ問題には解決の目処はついた。 その他のほとんどの問題は、朝比奈みくるほか時空工作員たちで片がつくだろう。 残るは、αβ問題だけだ。 今のところ規定事項に影響を及ぼすようなイレギュラーは観測されてないが、あのあたりの時間平面連続体には不安定要素が多すぎる。不安は尽きない。 γ-7 「考えてみれば、このような事態は予測されてしかるべきでした」 次の一手を長考するしぐさで、古泉がそう切り出してきた。 ハルヒは、学内案内と称して、佐々木をつれまわしている。しばらくは帰ってこないだろう。 ちなみにいうと、佐々木はきちんと北高の制服を着ていた。ハルヒが調達してきたそうだ。さすがに、他校の制服で校内をうろつけば、目立つからな。 「涼宮さんは、個性ある人材を求めています。そういう意味では、涼宮さんが佐々木さんを見逃すはずはなかったわけです」 「まあ、確かに、あいつは変わった奴だからな。しかし、まさかとは思うが、佐々木が異世界人ってことはないだろうな?」 「それはないとは思いますが……ただ、佐々木さんは、涼宮さんと同等たりうるかもしれない存在という可能性はあります」 「どういうことだ?」 「『機関』の一部が涼宮さんを神とあがめているように、橘京子の組織にも佐々木さんを神とあがめる人たちはいるんですよ」 古泉は、さらりとそんなことを言った。 そして、こう続ける。 「彼女たちがいうには、涼宮さんの力は本来は佐々木さんがもつべきであったと。佐々木さんは、涼宮さんみたいに、世界を変容させようとは微塵も考えないからとね」 俺は、古泉の言葉を理解するのに、数十秒の時間が必要だった。 「ちょっと待て。もしかして、佐々木にも、ハルヒみたいなトンデモ能力があるってのか?」 まさか、佐々木まで一般人でないとは思わなかった。 俺の交友関係はトンデモだらけのようだな。この調子じゃ、谷口や国木田まで何かトンデモ属性をもってそうで怖いぞ。 「あくまで、その可能性ですよ。佐々木さんの閉鎖空間には、僕たちは入れないのでね。確かめようがないというのが、現状です。ただ、佐々木さんからは、その手の雰囲気というか、気配みたいなものを感じますから、すべてが嘘というわけでもないのでしょうが」 「おまえらが橘たちと対立してる理由はそれか」 「僕たちの能力は、涼宮さんから与えられたもので、涼宮さんの力を抑えるために存在する。『機関』としてはこの点だけは譲れません。僕たちの存在理由そのものですからね。その前提条件を覆すようなことは、到底受け入れられるわけもない」 まあ、そりゃそうだろうな。 「それに、彼女たちは勘違いをしている可能性もあるんですよ。佐々木さんが世界を変容させないのは、単に力が足りてないからかもしれない。もし涼宮さんの力がすべて佐々木さんに移ってしまったらどうなるのかは、予測不能です」 確かに、ある程度は対処方法がつかめているハルヒの方がまだマシだとはいえるだろう、少なくても『機関』にとっては。 古泉がようやく、次の一手を打った。だが、俺の優位は変わらない。 「しかし、佐々木にハルヒの力を移すったって、どうやるつもりなんだ?」 「まさに問題はそこですよ。橘京子の組織の主張は、これまでは絵空事でしかなかったんです。でも、彼女たちの前に、周防九曜という存在が現れた」 「ヤツの親玉なら、それが可能かもしれないというわけか」 「そういうことですね」 やがて、ハルヒと佐々木が帰ってきた。 「これから佐々木さん歓迎大会をやるわよ!」 ハルヒは、百ワットの笑顔でそう宣言した。 「どこでだ?」 俺は、律儀にツッコミを入れてやる。 部室でやった日には、あの生徒会長が嫌味をいいに来るぞ。 「有希の部屋でやるわよ。有希、いい?」 長門は、本から顔をあげて、わずかにうなずいた。 「じゃあ、レッツゴー!」 ハルヒは、上機嫌そのものだった。 崖から転がり落ちる石ころのような勢いで、というとさすがに誇張だが、ハルヒが坂道を進む速度は競歩の世界選手権代表といい勝負だったと言える。 ハルヒの後ろ姿から伸びる見えない綱に引っ張られるがごとく、俺と古泉、朝比奈さんと長門、そして佐々木も下校路を下り続け、ようやくの平地にたどり着いた時点ですっかり息が上がっていた。 常にデオドラント状態の古泉でさえ、額の汗を拭っているぐらいだから程度が知れるだろう。朝比奈さんなんか膝に手を当ててふうふう言っている。 「おい、ハルヒ。なんでそんなに急ぐ必要があるんだ?」 俺がそういうと、この放射性物質を体内に飼っているかのような疲れ知らずの女は、 「善は急げっていうでしょ? 時間は待ってくれないのよ!」とのたまわった。 急がば回れともいうんだがな。 佐々木が乱れた息を整えつつ、こう言った。 「涼宮さん、私のために急いでくれるのはありがたいんだけど、少しゆっくりしてもらえるかしら。さすがにこの調子じゃ着くまでに疲れ果てちゃうわ」 そうだぞ、ハルヒ。歓迎される主賓が、歓迎される前にダウンしてちゃ話にならん。 「佐々木さんがそういうなら仕方ないわね」 ハルヒは、つかつかと俺に近づいてきて、紙切れを渡した。 「キョン、買い出しに行ってきなさい」 俺は、紙に書かれているリストをざっと流し読みした。 「おいおい。とてもじゃないが、俺一人じゃ持ちきれんぞ」 「僕が御一緒いたしましょう」 古泉がすかさずそう申し出た。 なんでこのうららかな春の日に、男二人で歩き回らねばならんのだろうね。 俺がそんな愚痴を心の中でこぼしているうちに、俺と古泉は踏切の前にやってきた。 一年近く前。ちょうどこの辺りで、俺はハルヒから長々とした独白を聞いた。 何気なく線路の向こうに視線をやって、そこで目と手足が止まる。 橘京子。 俺たちの外なる敵が、踏切をまたいだ対面に立っていた。 先日出くわしたときとは打って変わって真剣そうな表情。 遮断機の警告灯が点滅を開始する。同時に電車の接近を告げる鐘の音が被さり、ものぐさそうにバーが下りてきた。 カン、カン、カン──。 遮断機が完全に下り、列車の接近を教える線路の震動と風切り音が大きくなる。 あり得ないタイミング。偶然じゃない。こいつは…… こいつは俺たちを待っていたんだ。いや、俺はどうでもよくて、古泉だけに用事があるのかもしれないが。 突風を撒き散らしてやって来た電車の車列が橘の姿を覆い隠した。 電車が去り、赤色警告灯が役目を果たして点滅を終え、黒黄色の長い棒が軋みながら上がりきるのを待たず、橘は動き出した。 早足で俺たちの前まで来て、 「ちょっといいですか?」 全力で断りたい気持ちの俺の切っ先の制するように、古泉が答えた。 「ええ、いいですよ。近くの喫茶店でどうでしょうか。あなたの奢りでね」 「『機関』は相変わらずケチなのですね」 「そちらと違って経費の管理が厳しいんですよ」 そんなトゲのある会話をしながら、橘と古泉は喫茶店へと向かっていく。 俺もついていかざるを得なかった。 「で、ご用件は?」 古泉は特に気負うでもなく、優雅に紅茶のカップを傾けながら、そう尋ねた。 こういう交渉事には慣れているのだろうか。 橘の答えは、意外なものであった。 「九曜さんには気をつけてください」 九曜に気をつけろだって? 「どういう意味ですか? 周防九曜はあなたがたの味方なのでは?」 「九曜さん自身が信用できないというわけではないですけど、彼女の創造主が何を考えているのかさっぱり分からないのです。私は、彼女の創造主が佐々木さんに害を及ぼさないか心配しているのです」 「あなたの立場ならば、その懸念はもっともなところですね。しかし、もしそうならば、あのときに周防九曜を伴っていたのはなぜですか? 周防九曜が危険だというならば、できる限り佐々木さんに近づけない方がいいでしょうに」 「佐々木さんは、九曜さんのことがお気に入りなのです」 「なるほど。噂にたがわず、佐々木さんは変わった趣味をお持ちなのですね」 確かに、佐々木はあの不気味な九曜に対しても興味深げというか何というか、少なくても悪い感情はもってない感じではあったな。 「で、我々にどうせよと?」 「佐々木さんが事実上そちらの管理下にある間は、佐々木さんの安全についてはあなたがたにお願いするしかないのです」 「いいでしょう。我々としても佐々木さんに危害が及ぶことを容認するつもりはありませんしね。でも、いいのですか? あなたのこの行為は、組織の方針に反するものなのでは?」 「組織よりも佐々木さんの方が大事なのです」 「その言葉だけは信用しておきましょう」 そこで話が終わりそうだったので、俺は気になっていたことを訊ねた。 「あの嫌味な未来野郎は今日もいないのか?」 「あの人は、自分から用事があるときしか連絡してこないのです」 橘の不満そうな顔で答えた。 橘たちは、相互不信でぐだぐだのようだな。そんなんで、SOS団に対抗しようたって、無理だぜ。 これなら、佐々木をSOS団に取り込んでしまえば、自然崩壊に追い込めそうだ。 「それは随分と仲のよいことだな」 俺が皮肉たっぷりにそう言ってやると、橘はそれっきり黙りこんだ。 話し合いはそれで終わり、橘は伝票をもってさっさと席をたった。 橘が支払いを終えて店を出て行ったところで、俺は古泉に話しかけた。 「あんな奴のいうことなんか信用していいのか?」 俺は、朝比奈さん誘拐犯のいうことなんて信用する気はないぞ。 「我々の注意を周防九曜にひきつけて、彼女の組織が裏で動くということも考えられますけどね。まあ、『機関』が彼女の組織の監視を緩めることはありませんから、心配はご無用ですよ」 そんなものか。 「それに、僕は彼女の話は信用できると思います。前にも言いましたが、彼女はあの組織の中ではまだ話が通じる方です。盲目的な佐々木さん信者でなければ、よき友人にさえなれたと思いますよ」 胡散臭い者同士、お似合いかもしれんがな。 「もしそうなったら、俺はおまえとの友人関係を考え直さねばならないだろうな」 「それは勘弁してもらいたいですね。あなたは僕の数少ない友人の一人ですから。まあ、それはともかく、この機会ですから、あなたに訊いておきたいことがあります。あなたと二人だけで話せる機会は、案外少ないのでね」 「なんだ?」 「あなたは正直なところ、涼宮さんや佐々木さんのことをどう思ってますか?」 古泉は珍しく真剣な表情で、そう訊いてきた。 俺も真剣に答えるべきなんだろう。 「SOS団のかけがえのない仲間ってところか。親友といってもいいのかもしれん。これはハルヒや佐々木だけじゃなく、長門や朝比奈さん、ついでにおまえも含めてな」 「あなたにそう言っていただけるとは、大変光栄です。ですが、涼宮さんや佐々木さんについて、仲間あるいは親友以外の関係になりうる可能性というのは考えられませんか?」 「SOS団を裏切れば、敵ってことになるんだろうけどな。あり得ないと信じたいところだが」 SOS団の誰かが裏切る。そんなことは万に一つもあり得ないと信じたいが、どんな可能性も0ではない。特に、超常的な組織・存在をバックにもつ三人については、そのバック同士が潜在的対立関係にあるともいえないことはないのだから。 「友か敵かですか。それ以外の選択肢はありえないのですか?」 「今さら無関係な第三者ってのはありえないだろ。ここまで深入りしちまったらな」 「そうですか。まあ、僕にとっては大変光栄な話ですし、長門さんや朝比奈さんもその覚悟はあるでしょうから、いいでしょう。ですが、涼宮さんや佐々木さんにとってはつらい話かもしれませんね、あなたと友か敵以外ではありえないということは」 「どういう意味だ?」 「分からないのならいいですよ」 古泉はふいに溜息をついた。 なんだ? 「いえ、僕もそろそろ『アルバイト』が一生涯続くことを覚悟せねばならないのかと思いましてね」 「おまえの『アルバイト』は、ハルヒのトンデモ能力がなくならない限り、ずっと続くもんだろ?」 「おっしゃられるとおりです。でも、僕はあなたに期待していたんですよ。あなたなら、涼宮さんのあの力を抑えてくれるんじゃないかとね」 「おいおい、このどこからどう見ても平凡な人間の俺にいったい何を期待してたってんだ。おまえは馬鹿か?」 古泉は、いつもの0円スマイルではない、どこからどう見ても苦笑としかいいようにない表情になった。 「辛辣ですね。ええ、そうですよ。僕は馬鹿です、どうしようもないくらいにね」 古泉の口調は、どこか自虐的な響きがあった。 「でも、あなたのおかげでようやく覚悟が固まりました。そのことについては、感謝いたします」 おまえに感謝なんかされても気持ち悪いだけだけどな。 数日前から感じていたことではあるが、古泉の様子がどうにもおかしい。 俺は真剣な口調で訊ねた。 「いったい、何があった?」 「正直にいいますと、昨今の情勢の変化で『機関』内の僕の立場が微妙になってましてね」 切り札の一つを行使しなきゃならんような事態にでも陥っているのだろうか。 「敵対勢力が本格的に動き出したことで、『機関』内の意思統一が崩れてきているのです。もともとそういう傾向はあったのですが、昨今の情勢変化でそれが加速してます」 古泉は抽象的な言い方でぼかしているが、もしかしたらやばいんじゃないのか? 「僕の今の立ち位置は、橘京子のそれに近いともいえます。まあ、今すぐ危難が迫っているというわけではないのですが、敵対勢力の動きによっては『機関』内で孤立してしまうかもしれません」 携帯電話はいつも前触れもなく鳴り出すものだ。この時もそうだった。 古泉と俺の会話を中断させたのは、ハルヒからの電話だ。 「ちょっとキョン! あんた、何ちんたらしてるのよ! 佐々木さんが待ちくたびれてるわよ! さっさとしなさい! 5分以内!」 喫茶店の店内全域に聞こえるんじゃないかと思うほどの声量だった。 俺が口を開く前に、古泉がヒョイっと携帯電話を奪い取り、 「すみません、涼宮さん。あまりにも量が多いので途中で休憩していたのですよ。すぐに戻りますので、なにとぞご容赦を」 そういうと電話を切って俺に返してきた。 そして、自分の携帯電話を取り出して、すばやく電話をかけだした。 「古泉です。すみません。ちょっと野暮用を頼まれてくれませんか? ええ、そうです。橘さんと情報交換しているうちにすっかり時間を食われてしまいまして」 そのあと、古泉はずらずらと買い物リストを読み上げた。 10分後、喫茶店の店前に黒塗りのタクシーが現れた。 運転席に座っているのは、毎度おなじみ、新川さんだ。後部座席には、本来俺たちが持って帰らねばならなかったはずの荷物がつんであった。 なんとなく申し訳ない気持ちになりつつ、俺は古泉とともにそのタクシーに乗り込んだ。 マンションの長門の部屋。 ハルヒが定めた制限時間を大幅にオーバーしてたどり着いた俺たちを見るなり、ハルヒは、 「遅刻! 罰金!」 俺だけを指差して、そう宣言した。 「なんで俺だけなんだよ。古泉だって同罪だろうが」 「どうせ、途中で休もうなんて言ったのはキョンなんでしょ。古泉くんは被害者だわ」 とんでもない冤罪だ。 むしろ、遅れたのは古泉側の事情だぞ。橘は古泉の相手なんだからな。 しかし、ハルヒ相手にそれを言うわけにはいかない。結局、俺が罪を被るしかなかった。 「今度の奢り代は『機関』から出しますよ。さすがに今回は僕絡みの事情ですからね」 古泉が俺の耳元でそうささやいた。 是非ともそうしてくれ。『機関』は経費に厳しいそうだが、これは認められる経費だろう。そうでないと困る。俺の財布はすでに非常事態宣言を出したいぐらいの危機的状況だからな。 女四名は台所でかしましく(といっても長門は相変わらず無口だが)準備をし、男どもは居間でだべっていた。 「仲良きことは美しきかな、といったところですか。佐々木さんがさっそくなじんでくれたようで、少しは安心といったところです」 まあ、寄ってくる相手をはなから拒絶するような奴ではないからな。 「このまま佐々木さんをこちら側に引き込んでしまえば、敵対勢力の意図を封じられる可能性も高まります。あなたには期待してますよ。ただし、涼宮さんの機嫌の損ねないように留意してもらいたいところですが」 「そんなのは関係ねぇよ。おまえらだって、佐々木だって、俺の友人だ。みんなで仲良くやるに越したことはないさ」 台所の様子をうかがう。 ハルヒの手際のよさは、解ってはいたが専業主婦顔負けだ。野菜を刻む包丁さばきも、ダシの取り方一つを見ても、よくぞここまで難なくこなすものだと感心するぜ。 それは佐々木も同じだったらしく、 「その感想は僕も共有するね。家庭科の成績は人並みのつもりだったけど、涼宮さんの前じゃ霞んで見えるよ」 「こんなの慣れたら誰だってできるわよ」 ハルヒは言った。小皿で鍋汁の味見をしつつ、 「あたしは小学生のときから料理してるんだもの。家族の誰よりもうまいわよ。あ、みくるちゃん、醤油とって」 「はぁい」 そういやハルヒが弁当を持ってくることは稀だが、オカンは作ってくれないのか? 「言えば作るでしょうし、たまに作りたがるけど、あたしが断ってんの。お弁当がいるときは自分でやるわ」 ハルヒは若干複雑な表情となり、 「こんなこと言うのもなんだけど、うちのおか……母親はね、ちょっと味オンチなのよ。舌がおかしいの。おまけに調味料を目分量で入れたり魚の焼き加減も適当なもんだから、同じ料理でも毎回味付けが違うわけ。あっ、有希、味醂とって」 「……」 長門は無言で味醂を差し出した。 できあがったものは、ごった煮スープカレーとでもいうべきものだった。 味付けは、長門がベースを提示し、ハルヒが隠し味をドバドバとつきこんだそうだ。 正直に言おう。滅茶苦茶うまかった。 食べ合わせというものを完全に無視したカオスのような具材も、そのスープにかかると、魔法のようにうまくなるのだ。 その場は終始楽しい雰囲気だった。それは、途中から参加したSOS団名誉顧問殿によるところが大きいだろうな。 鶴屋さんにかかれば、佐々木だって、ものの5秒でお友達だ。 楽しい歓迎会が終わっての帰り道。 出身中学が同じであれば、帰る方向も似たようなものになるのは当然のことで、俺と佐々木は、連れ立って歩いていた。 この機会に訊いておきたいことがいくつかある。 俺は単刀直入にこう切り出した。 「おまえ、どこまで知ってるんだ?」 「まあ、橘さんからだいたいの話は聞かせてもらったよ。でも、丸ごと鵜呑みにする気もないし、彼女の提言をすぐに受け入れるつもりもない。僕としては、自分自身の目で情報を集めてから判断したいといったところだ」 「それが、SOS団に入った理由か?」 「その通り。まずは、涼宮さんの人柄を確かめたかった。これは、僕個人としても興味があるところでもある」 確かに、ハルヒは興味深い人物かもしれんが。 「しかし、涼宮さんは、遠まわしな腹の探りあいというものは嫌いなようでね。いきなり、『正々堂々と勝負よ!』と宣言されてしまったよ。僕も受けて立たざるをえなかった」 「おいおい、いったい何の勝負をするってんだ? あのハルヒは超絶的な負けず嫌いだぞ。勝負となったら絶対に負ける気なんかねぇぜ」 「そうだろうね。でも、僕も受けて立った以上は、負けるつもりはないよ。何の勝負かは、君には秘密だ。君にそれを気づかせることそれ自体も、勝負の内容に入ってるのでね」 佐々木がそのつもりなら、いくら追及しても無駄だろう。 俺は、そう思い、それ以上は突っ込まなかった。 「長門さんと朝比奈さん。あの二人が、この勝負に加わっていないのは、ちょっと意外だった。二人のそれぞれの背景事情が理由だろうというのは、すぐに想像がついたけどね。あるいは、負けると分かっているから最初から参加する気がないのか」 何の勝負かは知らんが、あの二人がハルヒに本気の勝負をしかけるとしたら、よほどのことだろうな。それこそ、世界の終わりが来てもおかしくないような。 「僕もここ二日ばかりの経験で、自分の立場が非常に不利なものであることを認識させられたというのが正直な感想だ。僕から見ても、涼宮さんはとても魅力的な人物だよ。それに加えて、僕には一年近くのブランクもある。挽回するのは正直きついだろうね」 俺は、佐々木の言葉の意味がさっぱり理解できなかった。 だから、俺は話題を切り替えた。 「ところで、今日は、塾はないのか?」 特に意味があっての質問ではなかったのだが、佐々木の答えは意外なものだった。 「やめたよ。通信教育に切り替えた。親の説得に骨が折れたけどね。塾までの通学時間が人生においていかに無駄な時間かを説明して、何とか納得させることができた」 佐々木があの小難しいセリフまわしで懇々と説得している様子をイメージしてみた。 佐々木の御両親も災難だったな。 「今の僕には、SOS団の活動に支障を及ぼすような要素はない。そういうことだよ」 そして、別れ際、佐々木は独り言のようにこういい残した。 「ここ数日の経験で、僕はつくづく思ったよ。涼宮さんたちに、そして、橘さんたちにも、特殊な背景事情に全く関係なしで出会えていたら、どうなっていただろうか、とね」 佐々木よ、それは贅沢ってもんだぜ。 特殊な背景事情がなければ、そもそも出会うことはできなかった。それだけは確かなんだ。 だから、俺はそれを受け入れる覚悟はできている。 だが、佐々木は、超常的な状況に巻き込まれてからまだ数日だろう。覚悟を固めるにはまだ短すぎる時間だろうな。 てなことを考えつつ、俺は帰巣本能のおもむくまま自宅へ戻った。 涼宮ハルヒの驚愕γ 2 へ続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/619.html
第二章 断絶 週のあけた月曜日。あたしは不機嫌オーラをばらまきながら登校した。 半径5メートル以内に人がいないのがわかる。 教室に入り、誰も座っていない前の席を睨む。 二年生になっても変わらないこの位置関係に怒りを覚えたのは初めてだ。 あいつを見ていなければいけないなんて。 幸いなことに今日は席替えがある。 入学してからずっと続いていた偶然が途切れることを祈った。 遅刻ギリギリにあいつが教室に入ってくる。 席に鞄をおろして声をかけてくる。 「土曜日はすまなかった」 無視。 「今度からはちゃんと行くからさ」 無視。 「……?おーい」 無視。 ため息をつくとキョンは前を向き、岡部が入って来た。 授業中はイライラしっぱなしでろくに話も聞いていなかったけど 学校の授業なんて余裕よ、余裕。 こんなのもわからないなんて本当にキョンはバカよね。 待ちに待った席替え。 あたしは窓際一番後ろ。 キョンは廊下側一番前。 教室はパニック寸前だった。 ……この程度のことで騒がないでよ。 キョンを谷口のバカと国木田が慰めている。キョンは憮然と、と言うか唖然としている。 キョンは鞄を持つと教室をでた。 掃除を終わらせ我がSOS団部室へ向かう。 扉を開けるとそこには古泉君と有希とみくるちゃんと…… キョンがいた。 あたしの我慢は限界に近づいている。 あたしたちに嘘ついてまでデートしてたやつがのうのうと 『あたしたち』といようとする。 「キョン」 「何だ?」 普段と全く変わらない様子についに切れた。 「なんでここにいるの」 「いちゃ悪いのか?」 「ここはSOS団の部室よ」 「それが?」 「あたしたちに嘘ついて、SOS団の用事を放って、デートしたやつに ここにいる資格はないわ」 怪訝な顔をするキョン。 「ちょっと、ま……」 もうこれ以上聞きたくない。 『『出てけ!』』 ”四重奏”とともに古泉君につかみあげられて廊下に引っ張られるキョン。 ほかの四人も我慢の限界だったみたい。 「おい、ちょっと待てって。話を……」 鈍い音がしてキョンが黙る。 やけにニコヤかな古泉君が部室に入って鍵を閉めた。 改めて部室内を見渡すとみんなの怒り具合がわかる。 古泉君はボードゲームを出してなかったし、 湯のみも有希と古泉君の分しか出てない。 「はい、みんな注目!邪魔者も出てったところで次回の不思議探索について ミーティングを行います」 ここでいったん間。 「今度の土曜日十時に街に集合よ。遅れたら、罰金だから!」 空気が一瞬重くなる。 「罰金=キョン」の方程式が成り立っているみたいだ。 「そうですね。そっちの方がいいでしょう」 古泉君がいつものように朗らかに同意する。 「はい、お茶です」 それから他愛もない談笑で時が過ぎ、有希が本を閉じてあたしたちは下校する。 そのときあたしは廊下にあるものを見つけた。 「ねえ、古泉君」 「何でしょう?」 笑って答えながら、古泉君もあたしと同じ場所を見ている。 「どのくらい強くあいつを殴ったの?」 転々と跡を残しているそれは……。 「見た通りだと思いますよ」 そう、それは血だった。 <幕間2> 朝、学校についてハルヒに土曜日のことについて謝ったが無視された。 悪いことしたな、とは思ったけどここまでひどい扱いを受けるとは。 そのことに少なからずへこんでいて、授業には全く身が入らん。 わかんねえ……、ってつぶやいたら後ろのハルヒに鼻で笑われたような気がする。 俺が何をしたってんだ。 席替えがあった。どうせハルヒの前だろうって思ってたんだが 何が起きたのか、一番遠いところに座るはめになった。 ……ざわざわしすぎだお前ら。 偶然だろ、席替えなんて。 国木田と谷口がどうやら慰めてくれてるらしいがそんなことは気にならなかった。 とりあえず部室に行ってほかのやつらに話でも聞こうか。 と思ったんだが、みんなの反応がなんか――というか、ものすごく――よそよそしい。 古泉はボードゲームを誘ってこないし、朝比奈さんは俺にお茶を入れてくれない。 長門に至っては怒りの視線をぶつけてくる。 ……はげるって。ストレスで。 しばらくして掃除当番だったハルヒが入って来た。 こっちを見てものすごく不快そうな顔をする。 そして訳の分からん難癖を付けてきやがった。 「ここはSOS団の部室よ」 ってそれくらい知ってるさ。なんで俺がいちゃいけないんだ? ……。 土曜日?デート? ああ、『あれ』か。『あれ』を見られてたのか。 そりゃ、事情を知らなきゃ怒るだろうな。 とりあえず説明しようと口を開いた俺を……。 古泉がつかんで廊下に投げ飛ばしていた。 長門にまで「出てけ」って言われたのは正直きつい。 もう一度説明しようとした俺を古泉が思いっきり殴る。 壁に頭をぶつけて意識が遠ざかる。 気づくと部室内では次の土曜日のことを話していた。 こうなったら最終手段かな。 痛む頭を抑えて俺は学校を後にした。 終章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2711.html
『涼宮ハルヒのプリン騒動』 ―最終日― 昨日は酷い目にあったな。まさか鶴屋さんまでがあんなことをするなんて思ってなかったぜ。 それにハルヒも……あんなに怒るとは思わなかった。 まさかハルヒも俺のこと……いや、まさかな。さすがにそんな都合のいいことはないだろう。 鶴屋さんのおかげというべきか、とりあえずなんとか機嫌がよくなったみたいで一安心だ。 ……今日は何もないよな?順番的には長門の番な気もしないではないんだが。 いやいや、長門だぞ?いくらなんでも長門はそんなことしないだろ。いや、頼むからしないと言ってくれ。 なんてことを考えながら部室のドアをノックするも、中からは何も反応がない。 鍵は……開いてるな。ということは? 案の定、部屋の中では無口な宇宙人が一人黙々と読書にふけっていた。 「よう。長門だけか。……他のやつらはまだか?」 「そう」 軽く挨拶を交わしながら、いつもの席へと腰を下ろす。 背もたれに思いっきり寄りかかり、伸びをしながら大きく欠伸をついた後、再び視線を正面に向ける。 「……うおっ!?」 すると、いつの間に移動したのか、目の前に長門の姿があった。 「い、いきなりはびっくりするからやめてくれ。なんだ?」 長門はそっと右手を差し出す。……長門、お前もか。 「これ、プリン」 おいおい、長門さん?俺がいくら間抜けでもここでこのプリンに手をつけることはありえないぜ? 「プリン、いらない?」 「あ、ああ、遠慮しとくよ。長門が食べていいぜ?……お前のプリンなら、な」 「そう、なら食べる」 そう言うと再び自分の指定席に戻りプリンを食べ始め―― バタンッ!! やっぱりこのタイミングで来たか。危ないところだったぜ。 「あら、今日は有希とキョンだけ?……ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 「な、なに言ってんだ?俺じゃないぞ。長門だ。ほら、見ろ」 そう言って長門の方を見ると、確かにプリンを食べている。うん、おいしそうに食べてるな。 「あんたこそ何言ってんのよ?あれはあたしのじゃないわ。有希の自分のプリンじゃない?そうじゃなくて……」 ハルヒは俺の方を……ではなく、俺の目の前にあるプリンの空き容器を指差す。 ……なんだこりゃ? 「それのことよ!今日鶴屋さんからもらってものすっごく楽しみにしてたのに!」 ちょっと待て!なんでだ?さっきまでこんなのなかったはずだ。……まさか!? 長門の方をちらっと見ると、微かに笑っているように見える。 くそっ、あのときか。さっき長門が差し出したプリンはフェイクだったってわけだ。……やられた。 「落ち着けハルヒ。確かに何故かこれは俺の目の前にあるが、食べたのは俺じゃないんだ!信じてくれ」 「……有希、どういうこと?」 「私は食べてない。誓う」 くそっ、長門。お前までそうやって俺をいじめるのか?……そろそろ泣いてもいいか?俺。 「ほら、キョン。有希はこう言ってるわよ?」 「違う、俺じゃないんだ!……そ、そうだ。これはきっと古泉の陰謀だ。古泉が食べたに違いない」 「……なんでそこで古泉くんが出てくるのよ。根拠でもあるの?」 「それはないが……俺の勘だ。だが間違いない。いや、もはや超能力と言ってもいいかもしれん」 などと苦し紛れに言ってみたところでどうなるものでもないし、誰かが助けてくれるわけでもない。 「何言ってんのよ。あんたなんかに超能力使えるくらいなら今ごろ宇宙人が服着て歩き回ってるわよ」 いや、そこに服着てプリン食ってる宇宙人がいるんだ。まじで。 しかし、これが今目の前にこうしてある以上、どう考えても俺が不利だ。 どうすりゃいい。落ち着け、クールになれ、キョン。 「あんたが今食べたんでしょ!?早く謝りなさいよ。今なら土下座で許してあげられるかもしれないわ」 かもって、お前。絶対許す気ないだろ。 その時、天啓とも言うべき考えが俺の頭の中に閃いた。 いつまでも泣き寝入りばかりしてる俺じゃない。見てろよ、長門。 「わかった、ハルヒ。……今から俺じゃないってことを見せてやる」 「どうするつもり?」 「このプリンの容器を見てもらおう。……空だ。中にはスプーンが入っている」 「それがどうかしたの?普通じゃない。あんたが食べたから空なんでしょ?」 「俺が言いたいのはそうじゃない。……このスプーンを見てくれ」 「それがなんなのよ?普通のスプーンじゃない」 「確かに普通だ。だが俺はこれを使っていない。ということは、これは長門が使ったスプーンだ!」 「そ、それがなんだって言うのよ?」 「くっくっくっ、甘いな長門。甘すぎる。このプリンより甘いぜ」 「……やっぱあんたが食べたんじゃない」 「あ、いや、違う。今のは口がすべった。じゃなくて言葉のあやってやつだ。……俺は食べてない」 ここで俺は再び長門の方に視線を移す。 長門は何事かといった表情で俺の目を見つめ返している。 「これは長門が使ったスプーンだが、長門はこれを俺が使ったと言い張るんだよな?」 長門はじっと見つめたまま微動だにしない。俺はそれを肯定と受けとる。 「なら例えば、……そうだな。俺がこのスプーンを今から舐め回しても文句はないよな?」 「あ、あんた。……なんて恐ろしいことを……」 「ハルヒも俺が食べたと思ってるんなら文句ないよな?」 「そ、そうだけど。……でももしそうじゃなかったら……」 もらった。完璧だ。少なくともこれでハルヒは疑心暗鬼に陥るはず。ノン・リケットってやつだ。 どうだ長門?さすがにこれで俺の勝ちだろう。 そう思って長門の方を振り返ると、……なんと、長門が笑っていた。 うっすらと微笑みを浮かべるというレベルではなく、明らかに笑っていた。 「甘いのはあなた。甘すぎる。CoCo壱の甘口カレーよりも甘い」 ……いや、CoCo壱の甘口カレーって別にそんなに甘くないだろ。 なんてツッコミを入れている場合じゃなかった。 「私は誓ってそのプリンを食べていない。だからあなたがそのスプーンを舐めたとしても私には一切の不都合を生じない」 「いやいや、待てよ。だってこれは――」 「そして、仮にあなたの言うようにこれを私が食べたのだとしても私には不都合が生じない。困らない」 どういう意味だ? 「もし私の使ったスプーンをあなたが舐めたいというなら、……むしろ望むところ。それでも……」 長門は本を置いたうえで、立ち上がり、体ごとこちらに向き直る。 「それでもあなたが自分の言うことが正しいと言い、スプーンを舐めるというなら、それはもはや変態と言うべき」 「そ、そうよ!どっちにしろそんなことするなんて変態よ!」 なんてことだ。よくわからんがこのままスプーンを舐めると俺がただの変態ということになってしまう。 くそっ、どうすりゃいい。きっとまだ方法は――、そうだ!!この手があった。 「わかったハルヒ。これから証明してやる」 俺は立ち上がり、ハルヒの方へと近づく。 「な、なによ。……なんのつもり?」 俺はハルヒの肩に手を置き、いつか言ったあのセリフを再び口にする。 「あのな、ハルヒ。……俺、実はポニーテール萌えなんだ。」 「は、はぁ?」 「いつだったかのお前のポニーテールは、反則的なまでに似合ってたぞ」 「ちょっ、えっ?その言葉!?そんな、なにこれ?どういうこ――」 そう言って、いつかのときと同じように、ハルヒと唇を重ねる。 しばらくそのままの状態で固まった後、どちらからでもなく、二人同時に離れる。 「……どうだ?プリンの味なんてしなかっただろ?」 「そ、そうね。プリンの味はしなかったわ。……でも、……とても甘かったわ……」 「そうだな。俺も甘かった。……大好きだ、ハルヒ」 そのままハルヒを引き寄せ、ギュッと抱きしめる。 「……あたしもよ、キョン。……大好き」 「ハルヒ。……もう一回、キスしてもいいか?」 「えっ、こ、ここで?……そりゃ、あたしはいい――」 「外でして」 いかん、長門がいるのすっかり忘れてた。 「す、すまん長門。出るよ」 「そ、そうね、ごめん、有希。じゃああとよろしくね」 そうしてハルヒと二人で部室を出る。 後ろで「惜しかった」と聴こえた気がしたが、おそらく気のせいだろう。 惜しかった?なんのことだ? 「今日もあのケーキ屋に行くか?」 「今日?……うーん、あたしん家は?あたしがプリン作ってあげるわ」 「ホントか?あれうまかったらから楽しみだ。」 そうして二人でハルヒの家へと向かう。 ん?その後どうなったかって? もちろん、プリンとハルヒはおいしく頂いたさ。 ◇◇◇◇◇ 『涼宮ハルヒのプリン騒動』 ―最終日(裏)― 「うまくいった」 「さすがに長門さんですね」 「そうですねぇ。私もドキドキでした。これからお二人はどうするんでしょうねぇ」 「ふふっ、そんなこと決まってるじゃありませんか」 「あんなことやこんなこと」 「ものすごい抽象的ですね……それで伝わっちゃうのもすごいですけど」 「まぁどちらにしても僕たちの仕事は終わりですね。お二人が仲良くして頂けるというのは良いことです」 「でも少しつまらない」 「それは私もちょっとありますよねぇ。お二人をこうやって見てるとおもしろかったですし」 「まぁそううまくばかりもいきませんし、そのうち何かあるかもしれませんよ?」 「……朝比奈みくるで遊ぶという手もある……」 「……な、長門さん?何か言いました?」 「何も」 「朝比奈さんで遊ぶ手もある、と言ったんですよ!」 「……なんでそんな強気なんでしょうか?……やめてくださいよ」 「まぁそれもそのうち計画を立てておきますよ」 「そのうち」 「やめてください。……それにしてもキョンくんがスプーン舐めたらどうするつもりだったんですかぁ?」「……問題ない」 「実はですね。……あのプリン、僕が食べたんです。つまりあのスプーンも僕が使ったものです」 「昨日頼んだのはこのこと」 「えっ、ええぇぇ!?古泉くんが?な、なんのためにそんなことを?」 「仮に彼がスプーンを舐めた場合に後でショックを与えるため」 「ちなみに長門さんは彼との会話で一切嘘は吐いてませんよ。それも驚きました」 「……ひ、ひどい。キョンくん立ち直れなくなっちゃうところだったんじゃ……」 「というのは建前。本当の理由は別にある」 「おや、どういことでしょう?それは僕も聞いていませんね」 「実は……」 「実は……なんですかぁ?」 「実はあのスプーンは私があらかじめ舐めていた」 「な、なんということです!?」 「ほぇぇ、すごい展開になってきました」 「つまり僕は長門さんの舐めたスプーンを知らずに使っていたというわけですか……」 「ちなみにその後、私がもう一度舐めた」 「……やっぱり最終的には長門さんだったんですねぇ」 「……じゃあ僕と長門さんは知らないうちにかなりディープな間接キスをしていた、というわけですか……」 「そう」 「ひえぇぇ、まさか裏でそんなことになってしまってたなんて、びっくりですぅ」 「間接の次は直接しなければならない」 「って、ええぇぇ!?それは長門さん、いくらなんでも……」 「いえ、そのとおりです。ここまできてしまったからにはもはや直接以外に選択肢はありませんね」 「ない」 「……もうどうでもいいですぅ、好きにしてください……」 「では長門さん、これから二人でプリンでも食べに行きましょう。二人で」 「……行く。二人で」 「ちょっと『二人で』を強調しすぎじゃないですか……?別にいいですけど……」 「では朝比奈さん。またいつか会いましょう」 「はい。……もうツッコミませんよ」 「……いつか」 「はあぁ、一人になっちゃいましたぁ」 「そんなことはないっさ!」 「えっ、あれ、鶴屋さんですか?」 「そうさ、みくるが一人きりになっちゃったもんで遊びに来たのさ」 「そうですかぁ。ありがとうございます。……ってなんで知ってるんですかぁ!?」 「そりゃそうさ。なんせハルにゃんとキョンくん、有希っ子と古泉くんがくっつくように仕向けたのはこのあたしさ」 「ふぇっ、どういうことなんですかぁ!?」 「やけに計画が出来るの早すぎだと思わなかったかい?まるで最初っから全部出来てたみたいにさ?」 「そ、それは……確かに、おかしいかなぁ、とはちょっと思いました」 「あたしが全て計画を予め考えておいたのさっ。そしてそれを有希っ子と古泉くんに指示してたってわけさ」 「えっ、そうだったんですかぁ?」 「そしてこの計画の裏の目的は実は有希っ子と古泉くんをくっつけることにあったのさっ!」 「つ、鶴屋さん。あなたはなんてことを。涼宮さんとキョンくんはおとりだったなんて……」 「そして二つのカップルを作ることの真の目的は、こうやってみくるを一人ぼっちにすることなのさ」 「そ、そんなぁ。鶴屋さんひどいですぅ……」 「うっひゃっひゃっひゃ。面白いほど簡単にいったさ。ハルにゃんとキョンくんがくっついた後だったしね」 「そ、そんな……、どうしてそんなことを?」 「ふっふっふ。あたしの最終的な目的はここでそのプリンを頂くことっさ!」 「えっ、プ、プリンですかぁ?ここにはないですよぉ?」 「あるじゃないかい。……そこにでかいプリンが、それも二つも」 「ふえぇ、ま、まさか鶴屋さん、それをねらってたんですかぁ!?なんですかぁ、その手は?」 「へっへっへ、じゃあみくる、覚悟はいいかい?……答えは聞いてないにょろ!」 「ひええぇぇぇぇ!!!誰か助けてぇぇ!!」 「諦めるっさ!もうこのあたりには誰もいないよ」 「つ、鶴屋さぁん……許してくださいぃ。……………………なんて言うとでも思いましたかぁ?」 「なっ!?み、みくる?どういうことだい?」 「うふふっ、鶴屋さんはこのために二人をくっつけようとしていたみたいですね」 「そ、そうさ。うまくいったじゃないかい?」 「残念ですが古泉くんと長門さんはすでに付き合ってたんですよぉ?」 「な、なんだって!?……じゃああたしのやったことって……」 「それに実は私と二人っきりになるのもこんなことする必要もなかったんですよ」 「み、みくる?……まさか?」 「鶴屋さんがなかなか言ってこないから、引っかかったふりまでしちゃったじゃないですかぁ」 「じゃ、じゃあ全部わかってやってたのかいっ?なんでわかったさ!?」 「うふふっ。もう決まっていることなんですよ?……まぁそんなことはどうでもいいじゃないですかぁ」 「……そうだね。あたしたちもプリンでも食べに行くかいっ?みくるプリンは後にとっておくさ」 「そうしましょう。私も楽しみにしておきますぅ」 「あっはっは!大好きだよ、みくる」 「私もずっと鶴屋さんが好きだったんですよぉ?」 「気付かなくてごめんにょろ。……さぁ行くっさ!」 「はぁい、行きましょう」 「それにしても……なんでみくるにばれちゃったんだろうね……?」 「うふふっ。……禁則事項ですっ!!」 涼宮ハルヒのプリン騒動 ―完―
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/954.html
第 五 章 機関の運営は無事に軌道に乗り始めた。立ち上げは成功したと言える。 俺はハルヒが高校一年の時代に飛び、あらためて歴史を確認してみた。 当然ながら、相変わらずハルヒは進学校に通っていた。 ハルヒの情報爆発から三年が経過している。ハルヒの存在に気づいている連中は、ハルヒの観察役として進学校にエージェントを潜入させているはずだ。 ならばこの歴史での進学校の名簿を調べて、俺の記憶にある北高生と照合すれば、ハルヒの存在に気づいている連中をあぶり出せるかもしれない。 そして俺は機関が入手したそれを見て、ただ呆然としてした。 俺の知る北高の同級生の多くが、この歴史では進学校に通っているという事実を知ったわけだ。 中でも、俺の知る一年五組のクラスメイトたちは圧巻で、およそ三割がこの進学校に、しかもハルヒと同じクラスに入ってやがる。 ハルヒのクラスの名簿には、朝倉を筆頭に、朝倉の相棒だった委員長の榊など、そうそうたるメンバーが名を連ねていた。 やれやれ、こいつら全員どこかの怪しげな組織の構成員だったとはな…… 正直なところ、谷口や国木田、阪中の名前がその名簿になかったことに、俺は安堵した。 あいつらまでもが得体の知れない組織の構成員だったりしたら、俺の疑心暗鬼はトラウマ化して修復不可能となっていただろう。 こうした情報を得られたのは俺としても非常に有益だったが、そろそろ歴史のズレを確認する作業の効率化を図るために、いや手段と目的が入れ替わってるな、高校一年の俺とハルヒを出会わせるためにやらなくてはならないことがある。 ハルヒを北高に入学させなくてはならない。 俺はこの件について考えることをなるべく先送りにしていた。 それはなぜか? 考えれば考えるほど厄介な矛盾がこの命題に含まれているからだ。 ハルヒを北高に入学させるためには、高校一年の俺が当時から三年前の七夕に行き、北高生であるジョン・スミスの存在を中学一年のハルヒに覚えてもらわないといけない。そして、当時の俺はそれを朝比奈さんに依頼により実行した。 だが現在の歴史では未来人組織は発足していない。その証拠に進学校にも北高にも朝比奈さんの姿はないし、その他の未来人らしき人物が機関の報告書に記されることもなかった。 仮に先に未来人組織が発足し、朝比奈さんがこの時代に来たとしても、七夕の歴史がない限りハルヒは北高には行かず、ハルヒの監視員である朝比奈さんも北高に行くことはない。 であれば北高に通う俺が朝比奈さんに出会うこともなく、朝比奈さんに連れられて過去に行くという歴史が発生することはありえない。 つまりはこういうことだ。 ――ハルヒを北高に行かせるためには朝比奈さんが北高に行く必要があり、朝比奈さんを北高に行かせるためにはハルヒが北高に行く必要がある―― 卵が先か、鶏が先か。古泉が好みそうなテーマだったが、あいにく俺はそんなことをあれこれと考えあぐねた末に結局何もしない、というような性分は持ち合わせていない。 俺に与えられた特性は、とにかく行動することだ。俺は俺の信じる道を行く。それでいいんですよね、朝比奈さん。 そういうわけで、俺は朝比奈さんの登場を待たずして、高校生の俺の力も借りず、俺自身がハルヒに会いに行く決心をした。 さて、ここで問題がいくつかある。 ハルヒは俺を北高生だと信じてくれるだろうか。 当然ながらサングラスは外し、髭も剃らなければならない。また生やすのに苦労しそうだな。いっそのこと付け髭でも買っちまうか。 ハルヒに会ったのは午後九時過ぎで、かなり暗がりだった。少し身長は伸びているものの、制服さえ着ればおそらく何とかなるだろう。いや、何とかしないといけないのだが。 そしてもうひとつの問題。 俺は一人でハルヒに会いに行っていいものだろうか。 あのときハルヒは朝比奈さんを背負った俺を見て、怪しい奴だと思ったに違いなかった。だがその怪しさが逆にハルヒの興味を惹いたという可能性だってある。 俺一人だけではハルヒは相手にしてくれないかもしれない。単独の俺は実に平凡な風体だからな。実は俺は人類初のタイムトラベラーという地球の歴史の中でもオンリーワンの属性を有しているのだが。 ならば、俺は誰かを担いでハルヒに会う必要がある。では誰がいいか。 ジョン・スミスと同様、ハルヒはきっと朝比奈さんの人相を明確に覚えてはいまい。 だが、こういう仮説もありうる。ハルヒは、あのとき俺が背負っていた朝比奈さんの姿をおぼろげに覚えていて、それが高校一年の時にSOS団員として朝比奈さんを選ぶきっかけになったのかもしれないと。 ならば、なるべく朝比奈さんに似た人物を選ぶのが無難だろう。 そして俺にはその心当たりがあった。 それは、誰あろう俺の妹だ。妹は成長するに従い、どういうわけか朝比奈さんにとてもよく似た風貌になっていた。 我が家の家系と朝比奈さんに何らかの関係があるのではないかと疑うに充分なほど、妹は朝比奈さんの面影を確かに引き継いでいた。いや、朝比奈さんが妹の面影を引き継いでいると言うのが時系列的には正しいのだろうが。 ハルヒだって不思議がっていたからな。久しぶりに見た妹に思わず「みくるちゃん?」と声をかけるくらいだった。妹自身は失礼なことに朝比奈さんのことをすっかり忘れていたみたいだったが。 よし、シナリオは決まった。 俺は妹が高校生二年の頃に時間移動し、幸いにも北高に通っていた妹の下駄箱にラブレターチックな手紙を放り込み、人気のないところに誘い出した。朝比奈さん(大)が提唱する、タイムトラベラーのスタンダードなコミュニケーションのメソッドだ。 そして待ち合わせ時間丁度にやって来た妹の背後から気づかれないよう近づき、以前朝比奈さん(大)が朝比奈さん(小)にやったのと同じ方法で眠らせた。 その方法とは実に簡単なもので、TPDDの知覚システムを応用し相手の脳内の知覚分野にわずかに刺激を与えるだけだ。なぜそんなことを誰にも教わらずに出来たかって? 古泉ならきっとこう答えるだろう。解ってしまうんだから仕方がない、と。実に便利だな、この言葉。 それにしても、まさか実の妹に誘拐まがいのことをするハメになるとはな。全くやれやれだ。妹よ、悪く思わんでくれ。 妹を背負った俺はすぐさま時間移動をおこなった。俺やハルヒが中学一年のときの七夕。午後九時へ。 移動先は変わり者のメッカ、光陽園駅前公園。 ベンチには当然ながら、二人の朝比奈さんの姿も、高校生の俺の姿もなかった。 あのときと同様、周囲の目をはばかりようもなくはばかりながら、俺は東中に向かった。 到着した校門の前では、俺が知る中学生のハルヒが、俺が知る姿そのままで、今まさに校門を乗り越えようとしていた。 ハルヒに声をかけ、一言二言会話をし、体育用具倉庫の裏に行き、石灰と白線引きをリヤカーに積み、妹を倉庫の横に寝かせた。すまん妹よ、もうしばらく寝ていてくれ。 以前と同じくハルヒに命令されるまま、俺は汗だくになりながらハルヒ考案の宇宙人語を三十分ほどかけて描いた。 「それ北高の制服よね」 俺は高校一年のときより七つも歳を取っていたが、暗がりのせいかハルヒは北高生だと信じてくれたようだ。 そして俺はジョン・スミスと名乗り、ハルヒと別れた。 おっと、忘れていた。慌ててハルヒの後を追う。 「世界を大いに盛り上げるためのジョン・スミスをよろしく!」 これを言っておかないと、SOS団が別の名前になりそうだからな。 これで本当に大丈夫なのだろうか。もしハルヒが北高に行かなかったら、それは俺の魅力が高校生の頃と比べて衰えているということだろう。重ねて言うが、やれやれだ。 俺は元の時空間に戻り、妹を降ろして再び脳内操作をおこなった。あと一分もすれば目を覚ますはずだ。妹からすれば、一瞬気を失っただけと思うだろう。何しろ待ち合わせ時間から一分しか経ってないわけだからな。 機関の報告書に目を通し、俺はやっと一息つくことが出来た。 ついにハルヒは北高に入学した。そして、高校生の俺とハルヒは入学式の日に出会った。 報告書によれば、俺とハルヒは俺の知る歴史どおりに話し出すようにはなったらしいのだが、SOS団は結成されなかった。原因はわからない。 当然ながらハルヒと結婚する歴史にも至らなかった。 朝倉や喜緑さん、他の組織のエージェントたちも北高に現れたが、長門は未だ姿を見せない。 やはり元の歴史に戻すためには、まだまだ既定事項が足りないということだろう。 古泉を北高に送り込むのはいつでも出来るが、それでもおそらくSOS団は結成されないはずだ。古泉が転入する前にSOS団が作られたわけだからな。 ハルヒは、宇宙人、未来人、超能力者、異世界人の出現を待ち望んでいた。異世界人は結局俺も会ったことがないからこの際除外しよう。 つまり、長門、朝比奈さん、古泉が揃うことが、歴史を正しい流れに引き戻すための条件なのだろう。 いよいよ最大の難関である未来人組織発足のきっかけをつくる必要がある。 未来に関する既定事項は五つだ。朝比奈さん(大)はそれを未来への分岐点と呼んでいた。 少年が俺に助けられること。 少年が俺に亀を与えられること。 少年がハルヒの書いた論文を入手すること。 例の住所の住人が記憶媒体を入手し、少年がそれを譲り受けること。 ある未来人の先祖を病院送りにすること。 そしてここでも大きな矛盾が生じる。 高校生の俺が時間移動理論の研究者となる少年を助けたり、亀を与えたりしたのは、やはり朝比奈さんの指示によるものだ。朝比奈さん(小)に連れられて俺は少年を救い、朝比奈さん(大)の指令により俺は亀を川に投げ込んだ。 だが、現時点ではどちらの朝比奈さんもこの時代には現れない。少年が時間移動理論を研究しないと未来人組織が発足することもなく、未来人がこの時代に干渉することはないはずだ。 そして既定事項を順守するならば、少年が時間移動理論の研究に着手するためには高校生の俺が少年に干渉する必要があり、そのためには朝比奈さんが不可欠だ。 またしても堂々巡りである。なんだって朝比奈さんはこんなややこしいことをしてくれたんだ? それとは別の重大な矛盾もあった。 少年が時間移動理論を研究するためには、少年がハルヒの論文を入手し、記憶媒体を例の住所に送る必要がある。 だが、今の歴史上にハルヒの論文は存在しない。まだSOS団さえ結成されていないんだからな。 それにあの記憶媒体はパンジーの花壇に今も落ちているのか? おそらくそれはないだろう。あれは明らかにこの時代のものではなく、未来アイテムだ。 そしてあれが仮にあの敵対未来人組織の憎たらしい野郎がこの年代に持ってきた物だとしても、未来人組織が発足していないこの歴史の流れから考えれば奴がこの時代に現れることもありえない。 これはやはり、七夕の時と同じように俺が無理矢理に歴史の端緒を開かなければならないようだった。 俺はやれることから一つずつ始めることにした。そうさ。夏休みの宿題を最後の一週間になってようやく手をつける、それが俺のやり方なんだ。 ハルヒだったらどうするんだろうな、こういうときは。 そういうわけで、俺はまずは少年を助けることにした。 これはおそらく朝比奈さんがいなくても問題はなかろう。少年にとって朝比奈さんの存在がそれほど重要だとは思えなかったからな。 問題は少年を襲う未来人もいないということだが、それも誰でもいい。とにかく少年が襲われればいいと俺は考えた。 つまり、こういうシナリオだ。俺が機関を使って少年を襲わせ、俺が助ける。要は自作自演だ。 一旦未来人組織が発足する歴史さえ作れば、後は朝比奈さんと、朝比奈さんの敵対未来人が本来の歴史で上書きしてくれるに違いない。そしてその実行部隊として、高校生だった俺に白羽の矢が突き刺さるわけだ。 自業自得とか因果応報とか、そういう四字熟語が今の俺にはふさわしいね。 俺は、俺が高校一年だった頃の冬に飛び、機関本部の森さんのオフィスに足を運んだ。 「詳しい事情は説明出来ませんが、明日の○○時××分頃に、△△の踏み切り前を通りがかる少年を車ではねてもらえませんか」 それを聞いた森さんは、顔色ひとつ変えずに、 「殺しですね」 と即答する。目がマジだ。正直言って、体中の力が抜けそうなくらい怖い。 「いや、心配しなくていいです」 心配しているのは俺の方なんだが。 「結果的には俺が助けることになりますんで」 明らかに不可解そうな顔つきで俺を見た森さんだったが、 「なるほど、何か理由があってのことなのですね」 と、結局のところは納得してくれた。 そして、俺は例の時間の例の場所に行き、少年と車を待った。 たとえ二度目とはいえども、文字どおり一歩間違えれば俺の命だって危ない。 そして少年は現れ、俺は心拍数を五十くらい上げつつも、機関がおそらく臨時で雇ったであろうドライバーに轢かれそうになる少年をなんとか助け出すことが出来た。多少手心を加えるようにと言っておくべきだった。 俺は少年の名を訊ね、朝比奈さんの代わりに少年と約束をし、指きりをした。 やれやれだ。少年よ、すまん。危ない目に遭わせたのも実は俺なんだ。 いや、礼なんか言わなくていい。泣きたくなってくる。 少年が今日のことをハルヒに伝えたとして、誰ひとりとして被害が及ばないことだけが救いだった。 あのときの俺と朝比奈さんの受難は二度と思い出したくもない。 そして、あのときのハルヒの気持ちを考えれば、なおさらだ。 次に手軽に出来そうなのは、朝比奈さん言うところのある未来人の先祖を病院送りにすることだ。 これは一人でいいのか? あのときの朝比奈さん(大)からの指令書には『必ず、朝比奈みくるとともに』と書かれてあった。 あの場所に朝比奈さん(小)が一緒にいたことが、どういう理由で重要だったのだろうか。 俺は推測してみた。気の毒にイタズラにひっかかり病院送りとなった男性は、その後病院で知り合った女性と結婚することになる、と朝比奈さんは言っていた。 あの男性は、俺に向かって朝比奈さんのことを彼女かと尋ね、あのときの俺はそう言っておいた方がいいだろうと判断し、肯定した。 もしかしたら、あのときの俺と朝比奈さんの姿が、その後の男性に何らかの影響を及ぼしているのかもしれない。 こんな小僧にも彼女がいるのなら俺も頑張らないとな、みたいなことを考えたとしても不思議ではない。 では、誰を連れて行く? 七夕に引き続き、朝比奈さんによく似た俺の妹にご登場願うか? だが、妹を気絶させたまま男性に会わせるというのは明らかに問題だろう。むしろ逆効果としか思えない。 未来の妹に事情を全部話して協力させるというのも悪い手ではないかもしれない。どうせ未来が上書きされてしまえば、妹の記憶はすっかり塗り替えられるだろう。 だが、妹のあの水素原子並みに軽い口のことを考えると、俺とは別の未来の俺が困った状況に遭うのが容易に想像出来る。俺はそこまで自虐的な性格ではない。 事情を話さずに、喜んでつきあってくれそうな女性。鶴屋さんの顔が思い浮かんだ。 イタズラ好きの彼女のことだからきっと二つ返事で協力してくれるだろう。だが、そういうわけにもいかなそうだった。 俺は中学生の頃の鶴屋さんに素顔を見られているが、高校二年になった彼女にもう一度素顔を見られるのはさすがにまずかった。 既に鶴屋さんは北高に入学した俺に会っていて、今の俺とその俺の関係に勘付いているはずだ。 今俺が鶴屋さんに素顔を見せ、あまつさえ北高の制服など着れば、これはもう100%間違いなくジョン・スミス=高校生の俺という公式が成り立ってしまうだろう。 というわけで、俺はまたしても機関を頼り、パートタイマーの女子高生を調達することにした。 その女性とともに夕暮れの歩道に向かい、五寸釘で固定した空き缶を仕掛け、首尾よく男性はそれを蹴って負傷し、めでたく病院送りとなった。 あなたの子孫がどういう未来を作るのか俺にはよく解りませんが、とにかく頑張ってください。俺は病院に向かうタクシーに向けて心の中でエールを飛ばした。 次におこなったのは、亀を川に放り込み、少年に亀を渡すことである。 これも朝比奈さんはおそらく必要あるまい。 俺は鶴屋家の庭の池からなるべく長生きしそうな小亀を探して捕まえ、葉桜の並ぶ遊歩道に行き、少年の前で亀を川に投げ込み、亀を回収し、少年に手渡した。 そして、念のためにではあるが、今日のことは誰にも口外しないようにと言っておいた。 さて、いよいよ残こされた課題は記憶媒体とハルヒの論文だ。 だが、これらを後回しにしていたからといってその間に何かいいアイデアが浮かんだかというと、そういうことは全くなかった。 記憶媒体の入手方法に関しては、まるで見当がつかなかった。俺がこれから未来に飛び、いつどこに存在するかも解らないそれを探し回るというのはどう考えても非現実的だった。 ハルヒの論文にしてもそうだ。あれはそもそもSOS団を恒久的に存続させるためにと書かれたものだったはずで、SOS団なくしてあの論文が生み出されるとは考えられない。 果たして論文と記憶媒体なしで少年は時間移動理論の研究を進めることが出来るのだろうか? これは試す価値がある。ひとまず少年と知り合いになる事実は既に作ってある。 もし失敗したら、あらためて論文と記憶媒体の件を何とかしてからもう一度少年にSTC理論を付与する歴史に塗り替えればいい。 俺は、以前少年にSTC理論を付与した日に移動し、少年を訪ねた。 そして、すぐさまこれはダメだという結論に至った。 前回と同じく、タイムトラベルに関する助力が欲しいと言った俺に、少年はこう答えた。 「タイムトラベルですか? 確かに僕はサイエンスフィクションに興味はありますが。あなたは小説か何かをお書きになるんでしょうか?」 どうやら、俺が少年を助けたこと、亀を投げ込んだこと以上に、ハルヒの論文と記憶媒体は重要な意味を持っているようだった。 だが、いくら考えても結論など出るはずもなかった。こういうときは寝てしまうに限る。そうすれば明日いいアイデアが浮かぶかもしれない。 もしかしたら、また都合よく例の夢を見られるかもしれないしな。 薄暗い。寒気を感じる。 木枠に嵌った窓ガラスの方からぼんやりとした灯りが差す。 夜の学校。見覚えのある部屋。 老朽化した天井。ひび割れた壁。木製の扉。 少ない備品が手狭な部屋を広く感じさせる。 長テーブル。パイプ椅子。本棚。 本棚には、厚手のハードカバーから文庫本までがずらりと並んでいる。 窓の外に目を向ける。 グラウンドの方にわずかに光る何かが見える。 目覚めた俺は、あまりのご都合主義的な展開に苦笑する他なかった。 この夢を見せているのは、やはりハルヒ、お前なのか? 俺は、俺が見る夢を全面的に信じるようになっていた。既に俺は二度も夢に助けられている。 これがハルヒの見せている夢だとしたら、俺にはあの場所に心当たりがある。ならばそこに行くしかない。 時空間座標を真夜中の北高に設定し、移動する。 北高に足を踏み入れるのは五年ぶりくらいにはなる。この歳になっても、夜の学校を一人で歩くのは少々怖い。 俺はあのグラウンドに向かい、しばらく歩き回ってみた。たが期待に反して収穫は何もなかった。 あれはハルヒの見せたものではなくて、普通の夢だったのだろうか。 その日の夜、また同じ夢を見た。 文芸部部室から見える、グラウンド上のおぼろげな光。 やはりこれはただの夢ではない。ハルヒが俺を呼んでいるのか? もう一度夜の学校へと赴いた。だが昨日と同じく何も手がかりは得られない。 そうか。つまり場所だけではダメなんだ。「どこ」だけではなく「いつ」が必要なのだ。 俺は夢の内容をもう一度思い出してみた。 俺は夢の中で寒気を感じていた。ならば季節は冬か? 違う。それは季節を表すものではない。俺はその寒気を既に何度か経験していた。夢の中で、そして現実世界で。 つまりそれは閉鎖空間を暗示しているはずだ。 グラウンド。閉鎖空間。 俺とハルヒの二人だけのモノクロームの世界の中で、俺たちは始めてのキスをした。今でもあの時のことを鮮明に思い出せる。 そして同じくモノクロームの世界、様々な存在の様々な思惑が入り混じったあの空間で、俺たちは二度目のキスをした。 このどちらかの日に違いない。 時空間座標を設定し、俺はあの日、あの時間のあの場所へと飛んだ。 高校一年の五月下旬。ハルヒが最初に世界改変を試みたあの日。午前二時を少し過ぎた頃。 到着するなり、寒気が俺を襲った。間違いない。この歴史でも同じ時間、同じ場所に閉鎖空間が発生している。 グラウンドの中でも最も寒気が顕著な場所を探した。 どうやら古泉たち超能力者は、閉鎖空間の発生には気づいていないようだ。周囲に連絡用エージェントの姿が見えないのがその証拠だ。 つまり、これは俺のためだけに作られた閉鎖空間だということなのか。 しばらく後に、不意に寒気が消えた。 あたりを見回してみる。だが何も変化らしきものはない。 やれやれだ。ため息をついた俺は、ようやく足元にあるそれを発見した。今さっきまでは存在しなかった、薄茶色の封筒。 B4サイズのその封筒を開いた。 そこには、この歴史では決して存在するはずのない、あの日俺たちが作り上げた文芸部機関紙と、パンジーの花壇に落ちていた記憶媒体が入っていた。 ハルヒ、お前は別次元の世界から俺にこれを送ってくれたのか? 俺は文芸部機関紙の中から『世界を大いに盛り上げるためのその一・明日に向かう方程式覚え書き』と題されたハルヒの論文だけを抜粋し、匿名で少年に送った。同じく記憶媒体を手帳に書かれてあった住所に、やはり匿名で送った。 これで後は少年に再び会えば、前と同じシチュエーションで少年にSTC理論を付与出来るはずだ。 俺は少年にSTC理論を付与した日、時間に移動した。 体が揺れる感覚の後、その時代に到着した俺は、眼前に立っている人物を見て唖然とした。 目の前にいたのは、もう一人の俺だった。 なるほど、そうか。こいつは数日前に少年にSTC理論を付与しようとして失敗した俺だ。 つまり、今の俺がわざわざもう一度ここに赴かなくても、目の前の俺が少年に会ってSTC理論を付与してくれるわけだ。 だったら、もしこいつが今これから少年へのSTC理論の付与に成功した場合、こいつはハルヒの夢を見るのだろうか? 文芸部機関紙と記憶媒体を得る未来は生まれるのだろうか? 嫌な予感が頭をよぎった俺は、慌てて目の前の俺に声をかけ制止した。 振り返ったそいつは、当然のように唖然としている。当たり前だ。俺だってさっき同じように驚いたんだからな。 俺は初めて時間移動をおこなったときに、一分後の俺、一分前の俺と会ったことがある。その時は何が起こっているのかをすぐに理解出来た。 だが今回は違う。お互い、まさか自分が現れるなんて夢にも思っていなかった。目の前の俺もこの俺も。 俺は数日前の俺の迂闊な行動を後悔した。 「お前は誰だ」 「見てのとおり、俺はお前だ。未来の俺だ。ここはまずい。場所を変えよう」 「先にわけを話してもらおうか」 我ながら面倒な性格の奴だ。 「こんなところを人に見られたらまずい。とにかく移動が先だ」 過去の俺は渋々ながら承諾し、俺たちは人気のない場所を探して、近くの路地に移動した。 「俺はお前がいた時間より少し未来から来た。確か三日後だ」 時間移動を頻繁に繰り返すと、日時の感覚が著しく麻痺する。三日後で合ってるよな? 「何のために来たんだ?」 「三日前の俺は、彼にSTC理論を与えるためにここにやってきた。それが今のお前だ。これは解るか?」 「ああ」 「そしてその試みは失敗に終わる。少年に『SF小説でも書くんですか?』とか言われてな」 「散々な結果だな」 「全くだ。それで俺はその後ある方法でハルヒの論文と記憶媒体を手に入れた」 「何だと? お前、一体どうやってそれを手に入れたんだ」 「教えてやりたいが、それを言うと俺の歴史とお前の歴史に食い違いが起こるかもしれん。だから言えん。今こうして俺とお前が話しているだけでも既に食い違いは起こっているんだからな」 「やれやれ、全く面倒くさい話だな」 「全くだ」 二人の俺は同時に肩を竦めた。息もぴったりだ。当たり前だがな。 「それで、俺はこれから彼に再度STC理論を与えに行くところだったんだ。だが俺は過去の俺、つまりお前の存在をすっかり忘れていたというわけだ」 「なるほど話は解った。ならば俺はこのまま元の時間に戻り、ハルヒの論文と記憶媒体を探せばいいということだな」 「そう言うことだ。あまり考えすぎなくていい。果報は寝て待てだ。これ以上詳しいことは言えん」 「未来の俺がそう言うんなら、そうなんだろうな。覚えておくよ。じゃあな」 過去の俺は立ち去ろうとして、しばらくして立ち止まり、少し考えた様子を見せて振り返り、そしてこう言った。 「ということはだな。俺たちは前に七夕に行ってハルヒに会ったり、少年を助けたり亀を与えたり、色々したよな」 「ああ」 そこまで聞いて、俺はこいつの言いたいことが解った気がした。 「つまりは俺たちが元の既定事項と違う行動を取っている、例えば高校生の頃の俺たちの行動を肩代わりしているようなケースは、全て今回と似たようなことが起こるということか」 予想は当たっていた。確かにそのとおりだ。 「やれやれだな」 「やれやれだ」 二人の俺は同時に首を振った。息もぴったりだ。当たり前だ。そんなことはどうでもいい。 これから先のことを考えると正直なところ頭が痛かった。 こうして俺は、過去の俺にご退場願い、少年の元に向い、無事に少年にSTC理論を付与することが出来た。 ハルヒと結婚する事実のないこの歴史では、以前のシナリオとは多少異なる点はあったものの、幸いなことにハルヒが死ぬことを防ぐという俺の意向に少年は全面的に賛同してくれた。 おそらくこれで未来人組織発足のきっかけは生まれたはずだ。 俺は高校一年の頃の時代に飛び、機関作成の名簿を調べてみた。 二年の朝比奈さんがいたクラス。 だが、予想に反して朝比奈みくるの名は見当たらなかった。 おかしい、まだ未来人組織は発足していないのか? 他のクラスも調べてみた。それは一瞬で完了する。名簿の先頭の方だけ見ればいいわけだからな。 やはり朝比奈みくるの名はどこにも記されていなかった。 それからしばらく後の機関の報告書に、未来人という単語が載るようになった。 それには「二年×組の生徒で、言動に不審のある生徒を確認。その内容から未来人の可能性あり。現時点では確証なし。詳細要調査」と書かれてあった。 名前は書かれていない。 俺は森さんに問い合わせ、内容を確認した。 「彼女は一年の時から既に北高に入学していたらしく、時おり言動がおかしい、現代人なら誰もが常識として知っているはずのことを知らない、などの特徴が見られるとのことです」 俺は朝比奈さんを思い出していた。そうだよな、あの人はそういうそそっかしいところがあったよな。 「そいつの名前を教えてもらっていいですか」 「本来はまだ名前をお伝えすることは出来ないんです。敵対組織のダミー工作員の可能性がありまして。つまりいかにも未来人のような言動をとることで我々の反応を見るために送られた他組織のエージェントかもしれないということです」 全く森さんも色々と考えているもんだ。いや、実際に北高ではそのような謀略戦が繰り広げられているのかもしれない。 「ですので、これは他言無用ということでお願いします」 そして、俺はその名を聞いた。やはりそれは全く別人の名前であった。 「写真を入手出来ますか。確認しておきたいのですが」 もしかしたら、名前だけ以前と異なってはいるが、実は俺の知る朝比奈さんが来ているのかもしれない、と思ったからだ。 「私の手元には既に送られています。これも機密扱いでお願いします。確認後速やかに消去してください」 「もちろんです」 電子メールですぐさまそれは送られてきた。 添付ファイルを開いてみる。 パソコンのディスプレイには、まさに朝比奈さんとは全く似ても似つかない女性が映し出されていた。 その後の機関の調査で、その女性は間違いなく未来人だという結論に達した。 つまり未来人組織は確かに発足したのだ。そして朝比奈さんがいないこの歴史では未だにSOS団は結成されない。 なぜ朝比奈さんは来てくれないんだ? 俺は未来人に関係する既定事項を洗いなおしてみた。 少年に関係することはおそらく問題ないはずだ。実際に未来人組織は立ち上がっている。 記憶媒体に関しても正しい住所に送り、めぐり巡って少年に届いていた。あの媒体と朝比奈さんに関連性があるようには思えない。 その二つは俺の取った行動とその結果の因果関係が明らかだった。 だとすれば、残っているのはあのイタズラで怪我をした男性だ。 彼を病院送りにしたことがどう未来に影響しているのかを見極める必要がある。朝比奈さんは言っていた。彼は病院で女性と出会い、子供をもうけ、その子供はさらに子孫を残すと。 男性の子孫と朝比奈さんに何か関係があるのかもしれない。もしかしたら朝比奈さんが彼の子孫そのものなのだろうか。 俺は男性の系譜を追い始めた。 まず俺は怪我をさせた男性の病院に飛んだ。男性は朝比奈さんが言ったとおり、病院で女性と知り合った。 男性が退院するタイミングを見計らい、俺は空間移動を使いながら男性を尾行し、住所をつきとめた。 男性はその二年後、知り合った女性と結婚した。予定どおりだ。 ここで少し油断した。結婚後しばらくして二人は別の場所に住居を構えた。慌てて転居先を探す。頼むからあまり引越しはしないでくれよ。 その住所を元に、数年おきに住民票を入手する。それで家族構成はほぼ解った。 男性は結婚後一年で女の子を、五年後に男の子をもうけた。それ以降はどうやら子供は生まれていないようだった。 俺は今後の調査方法を考えた。 結局男性の家族構成を調べるのにほぼ一日かかった。彼の子供は二人だ。その二人はおそらくやがて結婚し子供をもうける。その子供が二人ずつだとすると、三代目の調査対象は四人になる。仮に子孫が二倍ずつ増えていくとしよう。この法則でいけば、五代目では十六人、十代目では五百十二人になる。二十代先まで追えば、実に524288人となる。系譜を追うに従い調査対象は等比数列的に増え続ける。 524288人を調べるとなると、一人を調べるのに一日かけたとしても1436年かかる計算になる。明らかに俺一人では不可能だ。 文字通りネズミ講だな。いやそれは失礼な例えだった。人間はそれほど多産ではない。これがひと昔前であれば、子供を五人くらい産むのも当たり前のことだろう。俺は少子化をこれほどありがたいと思ったことはなかった。本来ならありがたがる話ではないし、未来でも少子化傾向が続いているという確約もないが。 だが俺はおそらくそれほど先の代まで調べる必要はないだろうと踏んでいた。 なぜなら朝比奈さんたち未来人は、彼女たちの時代に生きるある人物の先祖があの怪我をさせた男性だということに行き着いたからだ。 その人物の親というのは必ず二人、その親二人の親も間違いなく二人ずつだ。一切の例外はない。ならば未来から過去の系譜を追うのも、過去から未来の系譜を追うのも共に等比数列に違いなく、同じだけの労力がかかるはずだ。 未来人組織がのべ1436年もかかる調査をするとは思えなかった。朝比奈さんは俺の生涯を調べることですら大変な作業だったと述懐していたからな。 考えていても仕方がない。俺は俺の直感に従いただ行動するのみだ。 十代目まで系譜を追ったとしても一年半はかかる計算になる。だが俺にはこれ以外に、朝比奈さんが俺たちの時代に来るための手がかりを得る方法は思いつかなかった。 俺は機関の運営に関する仕事の合間を使って調査を続けた。 住民票を調べる手は二代先あたりで使えなくなった。役所での個人情報保護が厳密になり、第三者がそれを閲覧することが極めて困難になっていたのだ。 調査の効率化のために郵便物の盗み見もしたが、この手もやはりしばらくすると使えなくなった。ほとんどの郵便物が電子メールに置き換わったらしかった。 そういうわけで調査の手段は住居の張り込みのみとなった。 ここで具体的な張り込みの方法を紹介しよう。 人は子供を作る場合もあれば作らない場合もある。結婚していようがしていまいが。 大体の場合、女性は二十歳から四十歳の間に出産するが、念のため十六歳から五十歳までを調査範囲とする。 その三十五年間をだいたい四ヶ月置きくらいに飛んで子供の有無を調べるわけだ。つまり一人あたりおよそ百回だ。 住居をしばらく張っていれば、母親の出かける時間が解るようになる。主にその時間を中心に張り込みをおこなう。 規則正しい生活を送っている人とそうでない人で多少ブレが生じるが、だいたい一回の張り込みに平均十分かかると思ってもらいたい。 つまり、一世帯の家系を調べるのに千分。およそ十七時間かかるということだ。 母親が妊娠したかどうかはお腹を見れば解る。お腹の状態で出産の予定日の予想を立てる。そんなに厳密に調査しなくても、二年置きくらいで大丈夫だろうって? だが、生まれてまもなく養子に出されるケースだってあるかもしれない。だから俺は正確に出産日を見定めることにした。 出産の際には病院に行くことも欠かさない。万一双子が生まれて片方が出産後すぐに養子に出されでもすれば、四ヶ月置きの張り込みだけではまずそれを知ることは出来ない。 俺はお腹の状態から出産予定日を判断するという、おそらく産婦人科医並の技能を身につけ、他の誰よりもこの男性の系譜について詳しくなった。 この調査方法はあくまでも女性の場合であり、男性の場合は生殖機能が衰えない限り調査範囲は女性に比べて飛躍的に増大する。 その気になれば六十、七十歳くらいでも充分子供を作ることが出来そうだからな。 これは大変な作業だった。ある者は離婚して別の家庭をつくり、ある者は妻以外の女性に子供を産ませた。 その度に増え続ける調査対象に俺は頭を抱え、自らの運命を呪いながらひたすら張り込みを続けた。 調査日数がのべ九ヶ月間に差し掛かり、調査結果の書き込まれた家系図が畳一枚分ほどの大きさになった頃にそれは起こった。 いつものように張り込みをしていた俺は、ある日異変に気づいた。 それは彼の八代先の子孫のひとりで男性だった。その男性が二十台後半の頃のことで、彼には妻も子もいなかった。 そいつが住居に戻らなくなった。やがてそこには別の人物が住み着くようになった。 引越しでもしやがったか? くそっ、どこに行きやがった。 俺は時間を絞り込み、引越しの瞬間を探した。 だが彼がいなくなってからしばらく張り込みをしたが荷物が運び出された形跡はなかった。 これはひょっとして失踪ってやつか? 俺は彼を最後に見かけた時間に戻った。彼を張り込んでいる少し過去の俺には見つからないように離れた場所へ。また面倒な説明をする気にはなれなかったからな。 首尾よく彼の姿を見つけた俺は尾行を開始した。 しばらく尾行を続けた俺は、まずいことになったな、ということに気づいた。 どうやら尾行がバレているらしい。 彼は周囲を見渡しながら何かを探すような歩き方を装い、同じ道を別の方向から二度通った。 俺がそれに気づいたのは、二度目にその道から大通りに出た時だった。 俺は直ちに尾行を中止した。 俺の張り込みは四ヶ月に一度だ。ならば、張り込みの事実まではおそらく気づかれてはいまい。 俺はおよそ一年前に戻り、再び彼を尾行した。 だが驚くべきことに、彼は前回と同じ歩き方で、別のルートではあったが二度同じ道を通ったのだった。 これは気づかれているのではないかもしれない。つまり彼には常に尾行を意識して生活をしなくてはならない理由があるということだ。 俺は手ごろな建物の屋上を探し、しばらくの間遠くから彼を観察することにした。 彼は毎日決まった時間に住居を出て、毎日異なる何パターンかのルートを通ったあとオフィスビルに入り、夕刻頃そのビルから朝のルートを逆行し、どこにも寄り道することなく住居に戻っていった。 このままでは進展はない。俺は四ヶ月先の彼を最後に見た日、つまり俺が途中で尾行を断念した日に戻り、意を決してビルに入ることにした。ここで調査を諦めるわけにはいかなかった。 何か危険な状況に立たされたとしても、俺には時間移動という武器がある。 あらかじめビルに入り待機する。彼がやってきた。一人でエレベータに乗る。同乗するわけにはいかない。エレベータの行き先表示を確認する。エレベータは四階で止まり、そして一階まで戻ってきて一人が降りた。四階には三つの会社がオフィスを構えていた。ならば彼はこのうちのどれかに勤めているのだろう。 俺は彼がエレベータから降りる少し前の四階に時間移動し、非常階段の踊り場に隠れ、彼を待ち伏せることにした。 エレベータが開いた。 おかしい。誰も降りてこない。 なぜだ? 後ろから肩を叩かれた。 そこには俺がさっきまで追っていた、エレベータに乗っているはずの男性が立っていた。 「なぜ俺を追っている」 やっと理解した。こいつはTPDDを持っている。俺は待ち伏せするつもりでこいつに待ち伏せされたんだ。 男性は微妙に口の端を歪めた。笑みとも不満とも取れる。 「お前、まさか能力者か? だがそれならなぜこんな尾行の仕方をする。まるで素人だ」 確かに尾行に関して俺は全くの素人だった。 「お前は何者だ。俺が知らない以上、少なくとも仲間ではないようだが」 「俺はあなたの敵ではありません。TPDDを持っているのは確かですが」 「待て」 男性の顔に明らかな困惑の色が滲み出ていた。 「お前、なぜ禁則がかかっていない? たとえ奴らの組織であろうとTPDDという単語を発せられる能力者はほとんどいないはずだ」 「なぜと言われても説明出来ません。俺にはもともと禁則事項が具体的にどういうものかもよく知りませんし」 「詳しい話を聞かせてもらおうか」 ここで俺は時間移動で逃亡することも出来たが、それでは調査は進展しない。それにこの男性が何らかの鍵になっているのはおそらく間違いないだろうと思えた。ここは素直に従ったほうがいい。 俺と男性はビルを出て近くの公園に行った。 男性は周囲に人の気配がないことを確認し、さらに手を耳に押し当て何かを確認するかのような仕草をした後、ようやく話し始めた。 「君は一体何者だ」 「詳しくは話せませんが、俺は過去から来ました」 「過去?」 「ええ。ここよりおよそ二百年前です」 「二百年前だと!?」 男性の困惑がさらに色濃くなった。 「俺の知る限りTPDDを最初に得ることの出来た人物が現れたのはおよそ六十年前だ。今までにTPDDを得た人間というのはほぼ例外なく俺たちの組織にプロフィールが残っている。 今のところ、それが敵対組織の人間であってもだ。そのリストに間違いがなければ、今までにTPDDを得られた人物はわずか三十七人。そして俺たちのような能力者はそれらの人物を全て記憶している。その人物の幼少期から老年期の姿まで全てだ。だがそのリストには君は含まれていない。これはどういうことだ?」 どうやら、STC理論を与えたときに少年が危惧していたような、誰もが時間移動の存在を知るような危なっかしい未来にはなっていないようだった。 俺はなるべく正直に話すことにした。 突発的にTPDDを得たこと、少年にSTC理論を付与したこと、おそらくそれが源流となって今この時代にTPDDが伝わっているであろうこと。 少年の名前を聞き男性は頷いてみせた。俺への猜疑心が少しは薄らいだのだろうか。 「仮に君が二百年前の人間だとして、何のためにこの時代にやってきた」 「ある女性を探しています」 「女性? それは君とどういう関係があるんだ?」 「名前は朝比奈みくると言います。ご存知ないですか? その女性もあなたの言う能力者ということになります。彼女はあなたの組織に所属していて、俺たちの時代に来るはずです」 朝比奈さんがこの男性の先祖を知っているということは、おそらく同じ組織の人間のはずだ。 「なるほど。その名に覚えはないが、つまりあの計画と関係があるということか。辻褄は合う」 「計画……ですか?」 「俺たちの組織は今から二年前に過去の事象を観測するシステムを作り上げた。それまでは過去を知るためにはTPDDを持つものが過去に赴き、駐在して調査する必要があった。まあ今でも詳細の史実を調べるには駐在員を送る必要があるんだがな。俺たちはそのシステムにより、今からおよそ二百年前に起こった大規模な時空振動を検出した。それの調査のために俺たちは新たに能力者を開拓し、過去に送り込むことが必要になったんだ」 なるほど、この時代でようやくハルヒの時空振動を発見したらしい。そしてその調査要員に朝比奈さんが含まれていたということなのだろう。 「それを実現するためには、俺たちには新たなスポンサーが必要だった。そしてそれは実に厳正に選ばれた。何しろ俺たちの組織の存在と活動内容は機密中の機密で、それはいかなる権力にも知られてはいけないことだった。だが、結局のところそのスポンサー筋から極一部の人間に情報が漏れ、俺たちとは違う別の能力者組織が生み出された」 それがあの朝比奈さんを誘拐した野郎や、閉鎖空間に現れた敵対未来人の連中なんだろうな。 「俺たちの組織は原則として歴史、これは我々の用語で既定事項と言うのだが、それを遵守したうえで過去の歴史を調査しそれに学ぶことに重きをおいている。だが敵対組織はこの時代の人類に都合のよい歴史を作るために能力を活用しようとしている。言い換えれば、俺たちは歴史の歪みを生み出さずにより良い未来を作ることを目標にし、奴らは歴史の歪みを大きくすることでそれを実現しようとしている。どちらが人類にとって正しい選択なのかは正直なところ俺にも解らない。解っているのは俺たちと奴らの、既定事項に関する考え方が明確に異なっていることだけだ。とは言え、我々と彼らには共通して守らなければならないことがある。それが禁則だ」 「禁則とは結局どういうものなんですか」 俺は今まで漠然と抱いていた疑問を正直に訊ねた。 「突き詰めて言えば、あらゆる人間に対して未来に至る既定事項の秘密を守る、ということに尽きる。過去から未来を守るために重要なことだ。つまり俺たちと奴らの組織は、同じ未来人という点で、禁則に関しては共通認識が出来上がっている。禁則を破るということは、お互いの組織の目的とは別の次元で絶対にあってはならないことだ。禁則を破ることで未来に生じる影響は誰にも正確な予想は出来ない。だから時間平面移動の研究は能力者のコントロール方法と一体で進められてきた。言わば核兵器以上に慎重な扱いをしなければならないものだ」 随分と物騒な話になってきた。 「禁則は我々のような能力者にとっては絶対に破ってはならない不可侵な領域なんだ。そういう理由で、禁則が適用されない能力者は一人の例外もなく存在しない。あらためて問う。君は一体何者なんだ?」 「それは申し訳ないですが言えません。何となく言わない方が良いような気がしますので」 「なるほど。未来人であれ過去人であれ、必要以上の情報を得ることが必ずしも正しいこととは言えないからな。それに君が言いたくないのならば俺たちにそれを強要する術はない。仮に俺たちが君を拘束したとしても、君は時間移動によりいつでもその状況から抜け出せるわけだからな。俺がそうであるように」 男性は心なしか楽しげな表情を見せた。 「だが、あといくつか質問させてくれ。答えてくれなくても構わない」 「解りました」 「君はどうやって俺に辿り着いた? この時代でも俺が能力者だということを知るものは数える程しかいない」 「あなたの先祖からの系譜を追ってここまで来ました」 「なるほど。つまり君が過去で出会った未来人が俺の先祖に関して何らかの情報を残したということだな。それは解った。もうひとつの質問だがいいか?」 「ええ」 「大体でいい。君の出身地はどこだ?」 俺はその問いに正確に答えた。一体何の意味があるのだろう。 だが、俺の答えに男性は深く頷いた。 「TPDDは限られた人間にのみそれを得る素養がある。そしてそれはある地域にルーツを持つ人間に限られるんだ。そう、君が生まれた地域だ。時間平面理論の研究もその場所から始まった。現段階ではその理由は我々には一切解らないがな。そして今回発見した時空振動もどうやらその周辺で発生したものらしい」 ハルヒは機関に所属する超能力者だけでなく、TPDDを得る能力者も地域限定で生み出していたということか。まあ世界中にそういう連中が拡散しているよりはよほどマシとは言えるが。 「今日君に会ったことは俺の胸の内にしまっておくことにする。いつかの時代の誰かが、禁則を破ってまで君に俺の先祖を教えたことにはきっと何か理由があるんだろう。俺にだって未知の未来を信じてみたいという気持ちはまだ残っているからな。もし俺に連絡を取りたい時はこの時空間座標に来てくれ。二度目以降に来る場合は同じ時間に日を変えて」 そう言って彼は人差し指を俺に向けた。俺はなんとなくそうするのがいいように思い、以前、朝比奈さんがしたように自分の手を差し出した。彼が俺の手の甲を人差し指で触れた瞬間に俺の頭の中に時空間座標が飛び込んできた。 彼は笑みを浮かべながら言った。 「やはりダメか」 何のことだ? 「君はやはり何も知らないんだな。そして君が言っていたことがおそらく全て真実だということをこれで確信した」 「どういうことです?」 「俺は敵対組織も含めた全能力者の中でも最高位のコードを持っている。禁則の制限というのは実に簡単に設定出来るものでね。今のやりとりの中で俺は禁則制限を設定する命令コードを君の脳内に送ったんだ。そしてそれは何の効力も発揮しなかった。君は本当に我々とは全く別の方法でTPDDを手に入れた存在だということが解ったよ」 油断も隙もないな、全く。だが俺はさっきの彼の話を聞いて、少しくらいは禁則に縛られていた方が良いような気にもなっていた。自分が歩く人間核兵器以上の存在なんていうのは、それはそれで困るからな。 「ははっ。だまし討ちのようなことをして済まなかった。だがこれはどうしても確かめておく必要があったことでね。では俺はここで失礼するよ。また会える日を楽しみにしている」 そう言って彼は元いたビルの方に去っていった。 その後も引き続き、怪我をさせた男性の系譜を引き続き調べたが、朝比奈さんに関係する人物は現れなかった。 ひとつ手がかりを得てひとつ手がかりを失った。 あの未来人組織の男性の口ぶりでは、ハルヒによる時空振動の調査が近く開始されることになるようだ。 ならば朝比奈さんもおそらく彼と同じ年代にいるはずだった。 俺は賭けに出ることにした。失敗すれば俺は数ヶ月間を無駄にすることになる。だが他に手がかりになりそうなことはなかった。 あの未来人の男性は言った。能力者のルーツは俺の住む地域にあると。 そして、朝比奈さんと俺の妹の間には何らかの関係があるはずだ。 俺は、妹の系譜が鍵を握っているかもしれないと考え、再び調査を開始した。 まさか自分の実家を張り込みすることになるとは夢にも思わなかった。実に不思議な気分だ。 そこには、以前見たのと同じように、ハルヒと結婚する歴史には至らず、ようやく就職先が決まったのか毎日不満げな表情で家を出る俺の姿があった。繰り返して言うが、俺はこんな未来には全く興味はない。 そして妹は朝比奈さんチックな雰囲気をそのまま残して成長していった。 妹は二十四歳のとき、柔和で見るからに面倒見のよさそうな男性と結婚した。兄の俺から見てもベストマッチングだと思える。 そしてその二年後、妹は俺の姪となる女の子を産んだ。 そこから男性の時と同じ方法で系譜を追っていった。 おそらく朝比奈さんが現れるとしたら、それは七代目から九代目あたりになるだろう。だがそこに辿り着くためにはやはり丹念に二代目からひとつずつ代を追っていくしかない。 機関の運営の方は既に俺がいなくてもほぼ問題ない状態になっており、俺はこちらの調査に没頭した。 そして、やはり数ヶ月の歳月を費やし、二枚目の家系図が畳一枚分になろうかという頃、俺はようやく朝比奈さんらしき人物を発見したのだった。 妹の九代目の子孫にあたるその少女が朝比奈さんではないかと気づいたのは、彼女が五歳になる頃だった。名前も朝比奈みくるではなかった。そもそもそれが本名だとは思っちゃいなかったが。 その彼女は、幼かった頃の俺の妹にとてもよく似ていたのだ。 俺は彼女を重点的に張り込むことにした。彼女が朝比奈さんだという確証が欲しい。 家の外からでしかうかがい知ることは出来なかったが、とても幸福そうな家庭だった。生活は決して裕福とは言えなかったが、両親も彼女も笑顔が絶えなかった。 だが、しばらく張り込みを続けた俺は、彼女の過酷な運命を知ることとなった。突然の不幸が彼女の家庭を襲った。 彼女が六歳のとき父親が事故で他界し、後を追うようにしてその数ヵ月後に母親が病死したのだ。 身寄りがなかった彼女は――彼女の両親は駆け落ち同様の状態で結婚し彼女を生んでいた。 身寄りがないのは系譜を調査していた俺が一番よく知っている――孤児院に入った。 彼女にとって孤児院での生活は辛いものだった。気の弱い彼女は新しい生活にあまりなじめなかった。 何よりも両親の死のショックがずっと残っていた。塞ぎがちで、独り隠れて泣いている姿をよく見かけた。 俺は孤児院を十日おきに三ヶ月ほど張っていた。突然彼女の姿が見えなくなった。どこかに引き取られたのだろうか。だがそう簡単に引き取り手が見つかるようには思えなかった。 張り込む日と時間を変え、彼女がいなくなった日を探し続ける。 放射冷却のために大気が冷え込んでいた冬のある日。見つけた。真夜中に一人孤児院を抜け出す少女。俺は後を追った。 彼女は部屋着のままで、力なく足元を見つめながらゆっくりと歩を進めていた。明らかに様子がおかしい。 しばらく歩いた彼女が着いた先は、孤児院近くの川べりだった。視線を川の流れに落としたまま動かない。 嫌な予感がした。こういうのはよく当たるんだ。 そして俺の予感どおり、彼女は一歩ずつ、ゆっくりと川に向かって歩きだした。 「なんてことしやがる!」 俺は叫びながら、全速力で彼女に駆け寄った。俺に気づいた彼女が急ぎ足になる。どんどん川に入っていく。足をもつれさせ、転んだ少女が川の流れに飲まれた。 一心不乱に彼女を追う。意外に水流が速かった。このまま川に入っては間に合わない。俺はしばらく岸を下流に向かって走り、彼女を待ち構えるようにして川に入った。 水深も案外深かった。腰のあたりまで水に浸かったところで、彼女に手を伸ばす。かろうじて手が届いた。意識を失っていた少女を川から引っ張り上げ、岸まで運んだ。 どうやら水は飲んでいない。呼吸も脈もあった。ショックで気を失っただけのようだ。しかしこのままでは肺炎にもなりかねない。急いで少女の上着を脱がせ、体を拭き、俺の上着で包んだ。 そして俺はそれを発見した。 やっと見つけた。この少女が間違いなく朝比奈さんだ。 少女の左胸にそれが確かにあった。俺が以前見たものよりも小さい、微かな星形のホクロが。 一体誰がこんな運命を仕組んだというのか。 もし成長した妹が朝比奈さんに似ていなくて、そしてこの朝比奈さんが幼い頃の妹に似ていなければ、俺はこの朝比奈さんを救うことは絶対に出来なかった。 しばらくして意識を取り戻した幼い朝比奈さんは、泣きじゃくりながら俺に訴えた。 「わたし……お父さんとお母さんのところに……行きたかったの……」 今まで見た朝比奈さんの涙の中でも最も悲痛なものだった。 「あなたは誰? わたし……お父さんとお母さんのそばに行くことも……できないの?」 掛ける言葉が見つからなかった。いつまでも泣き続ける朝比奈さんを俺は力一杯抱きしめた。そうするのが一番いいと思ったから。 俺の胸の中で肩を震わせる朝比奈さんに、俺はやっとの思いでこう告げた。 「君は今ここで死ぬべきじゃない。君はいずれきっと幸せになる。だからがんばって生きてくれ」 泣き疲れたのか、朝比奈さんはいつの間にか眠っていた。 俺は彼女を孤児院まで運び、玄関の前に座らせた。濡れていない俺の衣服で彼女を丁寧に包んだあと、孤児院の呼び出しベルを鳴らし、明かりが点いたのを確認して時間移動した。 これも俺の知ることのなかった既定事項なんだろうか。もしそうでないのなら、俺はまたひとつ歴史を変えてしまったことになる。 だが、誰かが俺の行動を非難するというのならば、俺はそれを真っ向から受けて立ってやる。人一人助けられない規定事項など糞食らえだ。 朝比奈さんの人生がこんな悲しい結末を迎えるような未来が存在してたまるものか。それを変えることに何をためらう必要があるというのか。 俺は未来人組織の彼が指定した時空間座標に飛んだ。朝比奈さんを助けた日からおよそ二年後の未来だ。 「前に言っていた女性がようやく見つかりました」 俺は朝比奈さんのことを伝えた。身寄りがなく孤児院にいること。すぐにでも能力者として彼女を引き取り、迎えてやってくれないかと。 「もしその女性が本当に能力者の資質を持っているのであれば、それはこちらとしても誠にありがたいことだ。今の状況では俺たちには一人でも多くの能力者が必要だからな。それにいずれ君たちの時代に行くことになると言うのならばなおさらだろう」 「それを聞いて安心しました。彼女は少し粗忽なところもありますが、努力家なのは俺が保障します。そしていずれは俺たちの時代にはなくてはならない人物になります」 「ああ、まかせてくれ。これが歴史の必然ということならば、俺が協力しないわけにはいかないからな」 「どうか彼女をよろしくお願いします」 朝比奈さん、どうかがんばって生きてください。この人があなたを向かえに行く日まで。 これで何度目になるだろうか。俺は高校一年の頃の時代に飛び、機関作成の北高名簿を調べた。 二年の朝比奈さんがいたクラス。 果たして、朝比奈みくるの名が登場していた。それはひと目で解る。何しろ目立つ名前だった。 長かった。これでようやく未来人関係の既定事項が全て満たされたはずだ。 機関の中では、朝比奈みくるが存在することは既に当然の事実ととなっていた。歴史は見事に上書きされている。 つまり、それまでいた未来人の存在は既に皆の記憶からばっさりと消去され、機関の全ての資料は未来人朝比奈みくるの名前が取って代わっていた。 『無矛盾な公理的集合論は自己そのものの無矛盾性を証明することができない』 そうさ。それがキングであろうがクイーンであろうが、駒を隠したり入れ替えたりした事実を誰にも悟られない限り、そこには何の矛盾もないのだ。 俺は森さんに、それとなく朝比奈さんのことを聞いてみた。 「我々を撹乱させるために他勢力から送り込まれたエージェントだという推測もありましたが、どうやら正真正銘の未来人のようです」 のっけから不穏な物言いである。 「我々が存在を確認した時点で、彼女は既に一般人からも疑念を抱かれるほど未来人としては迂闊な言動をしていたようです。しかも本人にはどうやらその自覚もないらしいのですが。正直なところ、彼女を我々の時代に送り込んだ未来人の意図が測りかねます」 俺はそれを聞いて確信した。散々な言われようだが、あの朝比奈さんをこれほど的確に表現した言葉もないだろう。つまり、ようやく俺の知る朝比奈さんがこの時代にやってきたということだ。 そして、彼女がこの時代に来た原因は、俺が未来人組織のあの男性に朝比奈さんの存在を伝えたからに違いなかった。 しかしながら、未だに機関の資料に長門有希の名は現れていなかった。 朝倉も喜緑さんもいるっていうのに、なぜ長門は北高に来ない? まだ足りないことがあるのか? 高校生の俺が長門に会っていないことが原因なのだろうか? だが俺の経験では、あの七夕の日に朝比奈さんとともに長門のマンションに行ったときには、既に長門は北高の制服を着て三年間の待機モードに入っていた。 俺が長門に会うまでもなく、長門が北高に入学してもおかしくはない。 だとしたら、長門が北高に来ないのは、ハルヒの一度目の情報爆発から七夕の間にあるはずの何かが欠けているということだ。 しかし俺はその間に長門に起こった何かを全く知らない。長門は自分の過去を語るなんてことを今まで一度もしたことがなかったからな。 いや、待てよ。 それは違う。 長門は一度だけ、その見えざる内面を俺たちの前に提示したことがあったじゃないか。 決して長門の口からは語られることのなかった、いや語れなかったのかもしれないその心情を、難解な暗喩に満ちた活字に換えて。 そして今、俺の手元にはそれがあった。次元を超えて俺の足元に現れたあの文芸部機関紙が。 俺は書棚からそれを取り出し、あらためて読み返してみた。 高校一年の頃はそれが何を意味するのかはおぼろげにしか解らなかった。だが今ならそのときよりも少しは理解出来る。 無題1、2、3の三部作として書かれた長門の創作小説。これは一部目が過去の長門について書かれていて、二部目が当時の長門、三部目が未来の長門のことなんだ。未来とはつまり二度目の閉鎖空間での出来事を表している。 一部目と三部目に書かれていた幽霊少女とオバケ少女。それは当時の俺の推測どおり、やはり朝比奈さんのことだったのではないか。 つまり朝比奈さんはあの文芸部室での出会いよりも以前に、長門に出会っていたのだ。 そしてそれが長門をハルヒの元へと向かわせるきっかけになったということなのか。 ならば、それは一体いつだ? 長門の原稿にはこう書かれている。 ――空から白いものが落ちてきた。たくさんの、小さな、不安定な、水の結晶。これを私の名前としよう―― 長門は初めて見る雪に心を動かされ、それを自分の名前としたのだ。 俺の記憶によれば、その年はハルヒの情報爆発の日以来雪は降っていない。 ハルヒの情報爆発の日以前には、例え情報統合思念体であろうと遡ることは出来ない。 ならばあの日情報爆発が起こってから雪が降り止むまでの間のどこかで、長門と朝比奈さんは出会ったに違いない。 では、それはどこだ? 宇宙人と未来人の出会いに相応しい場所。何の確証もないが、俺にはそこしか思い当たる場所はなかった。 長門が住んでいたマンションの近く。駅前のあの公園。 俺は自分の勘に従って、すぐさまその日のその場所に飛んだ。 ハルヒによる一度目の情報爆発の少し前。午後十一時。 二年前の俺は、この五時間ほど前にハルヒとこの公園で奇跡的に出会い、失われた記憶を取り戻した。 この時代に生きる小学生の俺は、三年後に前代未聞にして空前絶後の暴走女と出会い、その七年後にそいつと結婚することになるなど夢にも思わず、今頃別の夢でも見ているのかもしれない。 俺は公園のベンチの監視に適した場所を探した。それは奇しくも長門や朝倉が住むことになるマンションの屋上だった。 しばらくして、ハルヒの時空振動がきた。内臓までもが揺さぶられるような不思議な感覚。だが俺にとってはそれが奇妙に心地よく感じられた。 時空振動が収まったそのとき、双眼鏡越しのベンチの前に突如一人の少女が現れた。 俺の予想が当たっていたことが、誠にあっけなく証明された。 そこには、今まで俺が見たこともない姿の長門が立っていた。当然ながら北高の制服ではなく、例年の合宿限定で身につけていた普段着のどれでもなかった。 体の線が透けて見えるような、白い薄地のワンピース。それが外灯に照らされて不思議な輝きを放っていた。背中に羽根さえあれば、それは間違いなく天使に見えるだろう。まだ名前すらない無垢な天使。衣装と一体化したかのような、純白の顔が微かに見える。表情は読み取れない。 俺は呆然として、魂を抜かれたかのようにその姿に魅入られていた。 長門は身じろぎひとつせず、いつまでもそこに立ち尽くしたままだった。一時間経っても、二時間経ってもずっと同じ姿で。 すぐにでも長門の前に現れて声をかけてやりたい、どれだけそう思ったことか。 だがそうすることは出来なかった。それは俺の役目ではなかった。 俺は再び未来人組織の彼に会いに行った。朝比奈さんの居場所を彼に告げ、組織で引き取ってくれないかと申し出た日の翌日へ。 「すいません、わけあってまた来ました」 「ああ。またいずれ来るとは思っていたよ。用件はなんだい」 「昨日話した女性のことなんですが、もし彼女が俺の時代に来ることになったら、最初にある場所に行って欲しんです。いずれ彼女にそう伝えていただけませんか」 「それは君の時代にとって大切なことなんだな」 「それは実のところ俺にも解りません。ですがそれはおそらく必要なことのはずです」 「解った。こちらにも都合はあるから確約はしかねるが、なるべく君の期待に応えられるよう努力してみるよ」 「ありがとうございます。よろしくお願いします」 「それで、いつ、どこの時空に彼女を行かせればいいのかな」 そう言って彼は右手を差し出した。これは、俺に指伝えで情報を遅れということか? なんとなく出来そうな気はするが。 時空間座標を念じながら人差し指で触れてみた。 「おいおい、座標データだけでいいんだ。女の子の映像なんていらないぞ。それにしてもずいぶんと可憐な少女だな」 なかなか難しいもんだな。とりあえず座標は伝わったようだったが。 「しかし恐れ入ったな。普通これほど大量のデータを一度に送るなんて、相当訓練を積まないと出来ないことなんだがな」 声を上げて男性は笑った。 「まあ回数を重ねればいずれ慣れるさ。ああそれと、昨日の件だが組織の方には既に話は通しておいた。近いうちに彼女に迎えが行くはずだから安心してくれ」 そこまで言って男性は思いついたように、 「それとも、もう既に君の過去には影響があったのかな?」 「ええ、実はそのとおりです。なんとお礼を言っていいか」 「いや、まだ俺は組織に話をしただけだからな。まあ未来の俺に対する礼として受け取っておくことにするよ」 そう言って愉快そうに顔を綻ばせた。 これがTPDDを持つ者同士特有の会話なんだろうな。俺にはいつまでたっても馴染めそうにはないが。 あの公園で朝比奈さんと長門の間にどういういきさつがあったかは解らない。それは二人だけが知っていればいいことだ。 その結果、長門はようやく北高に現れた。これでSOS団設立時のメンバーが揃ったことになる。 そして高校一年の五月、ゴールデンウィークが明けた翌週。ついに念願のSOS団結成がなされた。 ハルヒを筆頭に、長門と朝比奈さん、そして過去の俺がSOS団に入ったのを確認した俺は、北高への転入指令を下すために高校一年になったばかりの古泉に会った。 「久しぶりだな」 「ご無沙汰しております。最近は本部の方でもお目にかかれませんが」 「ああ、色々と忙しくてな」 これは半分事実で半分嘘だ。俺は確かにここしばらく朝比奈さんの捜索に全力を注いでいたが、古泉と会うのはせいぜい数ヶ月ぶりのことだ。だが古泉からすれば、俺と会うのは二年ぶりくらいにはなる。 俺は話を切り出した。 「涼宮ハルヒに宇宙人と未来人が接触しているのはお前も既に知っていると思うが、是非お前にも北高に潜入して欲しい」 「それは興味深い話ですね。随分と急な話のようにも思えますが」 この頃には既に古泉はすっかり俺の知る古泉になっていた。 「ですが、どうして僕なんです? 北高には既に多くのエージェントが潜入していて、涼宮ハルヒとその周辺の調査も進んでいるはずですが」 「お前が機関の中で最も容易に涼宮ハルヒに近づける能力者だからだ。何しろ同級生だからな」 「なるほど。涼宮さんの内面をより理解することの出来る僕が直接彼女を観察するというのは確かに有効な手段かもしれませんね」 「だがこれは表向きの理由だ。俺はそれ以外の理由でお前が適任だと判断した」 「それはどういうことですか?」 「残念だが詳しい理由は話せない。だがこの任務はお前以外にやれる人物はいない。そしてその理由はいずれお前にも解る」 古泉はこの言葉の意味を転入した日の一限終了直後に知ることになる。いきなりハルヒが古泉のクラスに押しかけるわけだからな。さぞかし驚くことだろう。 「これだけは言っておく。これは機関にとって最も重要な任務だ。言い換えれば機関はこのために存在していると言ってもいい」 「なるほど」 そう言ってしばらく古泉は考える素振りを見せ、 「一つ聞かせてください」 「なんだ?」 「僕はあなたに他のお偉方とは違う何かをずっと感じていました。今まで僕なりにその理由を考えていたのですが、今日それが解った気がします」 古泉のことだ。さすがにここまで言えば俺の秘密には勘付くだろうな。 「あなたはこれから先に起こる未来を知っているのですね」 「ああ、その通りだ」 予想通りの問いかけに、俺は正直に答えた。いずれはこれから北高で出会う過去の俺とこの俺が同一人物だということにも気づくだろう。 「そういうことであれば、あなたが北高に行けと言うのなら、それは多分間違いのないことなんでしょう」 古泉は楽しげな笑みを浮かべた。 「ならばもう一つ聞いてもいいですか」 「俺が答えられることだったらな」 「涼宮ハルヒに接触し、彼女の精神面の安定に寄与している男子生徒のことです。彼は機関の調査では紛れもない一般人だとのことですが、あなたはそれについてどう思いますか」 よりによって、俺のことか。 「そいつは俺にも解らん。俺が知っているのは涼宮ハルヒが何らかの理由でそいつを選んだらしい、ということぐらいだ。もしかしたら隠された能力があるのかもしれんが」 お願いだから、実は俺が異世界人だったなどという、いまさらな展開だけは勘弁願いたい。 「その彼も実に興味深いですね。解りました。この件、是非僕にやらせてください」 すまんが過去の俺をよろしく頼むぞ古泉。俺には必要以上に興味は持ってくれなくてもいいんだがな。 俺は機関の報告書で、古泉の転校によってSOS団が全員集まったことを確認した。このまま行けばおそらく既定事項は全て満たされるはずだ。 後はその確認と歴史の微調整、つまり俺が高校生の俺の行動を肩代わりした歴史を本来の歴史に上書きすれば、ようやく俺はもう一度ハルヒ復活のチャンスを得られるのだ。 そして、もう一度卒業式の長門に会い、作戦を練り直し、第二の情報爆発のあの日に向えばいい。 あの老人を打ち破ることが出来るのかどうかは解らないが、朝比奈さんの言う未来を信じるならば、きっと何か策はあるはずだ。 これでようやく一段落ついたと感じていた。老人によって歴史が改変されてからおよそ二年を費やした。その努力がようやく結実しようとしている。 俺はさらに四日後に飛び、古泉が過去の俺に正体を明かしたことを確認した。間違いなく俺の知る歴史どおりに物事は進んでいる。 機関の報告書を読みながら、俺はこの頃に起こった出来事を振り返っていた。 高校生の俺は今頃、長門による叡智に満ちた宇宙規模的電波話に呆れ、朝比奈さんによる悲哀に満ちた超時空的告白に混乱し、古泉による妄想に満ちた神話的物語に辟易しているはずだ。たった数日間で、俺がそれまで把握していた世界の枠組みは、その姿を大きく変容させたのだった。 そして俺はさらにこの先の数日間で、朝倉に襲われ、朝比奈さん(大)に出会い、ハルヒに心情を告げられ、古泉に招待された閉鎖空間で神人を目の当たりにし、ハルヒによる新世界に閉じ込められることになる。 これはなかなかのハードスケジュールだぞ。がんばってくれよ、高校生の俺。 俺はふと思い出した。そう言えば今日この日の放課後、ハルヒは部室に姿を現さず、反省会と称して一人で市内探索をやってるんだっけか。 俺はなんとなくそんなハルヒを見てみたい気分になった。俺の知らないところでハルヒはどんな風に過ごしていたんだろうと。 今思えば、SOS団がようやく誕生したことで、俺はすっかり安心しきっていた。 そして、そこに油断があった。 第六章